ヴィジョン弦楽四重奏団

ジャンルの境界線を飛び越える新型クァルテット、日本来襲!


「ヴィジョン弦楽四重奏団を一言でいうと、『多様性(ダイヴァーシティ)』ということですか?」
 7月に行われたシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭での公演の翌日、宿泊先のホテルでそう訊いたら、直接的な答えは返ってこなかった。

「いろいろなスタイルの音楽をやるのは、観客にできるだけ多くのオファーを出して境界線を引きたくないからです。それが我々の姿だから、ありのままを見てもらいたいのです」(ヤーコブ・エンケ、第1ヴァイオリン)

 クラシックを予期して来る観客に他のジャンルの音楽も聴かせるのはチャレンジしたいから? それとも啓蒙するため?

「我々が演奏するところはほとんどがクラシック音楽の環境だし、特に弦楽四重奏は伝統的な室内楽なので、後半のプログラムを聴くと観客は、弦楽奏者からは想像もできなかったサウンドだという反応をします。楽器を叩いたりマイクを使ってヒップホップをやるわけですから。でもこれがクラシックとポップスを繋ぐよいチャンスです。ショックを受ける人も興奮する人もいるし、途中で帰ってしまう人も少しいます(笑)」(ザンダー・シュトゥアート、ヴィオラ)

 「多様性」などという堅苦しい言葉とは縁遠く、クラシックもポップスも自然に体の中から湧き出てくる感じだ。彼らについてよくいわれる立奏、暗譜のスタイルも、ポップスに慣れていたら当たり前のことだろう。気負いのない若者の“バンド・メンバー”だった。

 そんな自由な雰囲気の彼らだが、実はジュネーヴ国際音楽コンクール、メンデルスゾーン全ドイツ音楽大学コンクール等の主要コンクールに優勝している実力派だ(2016年)。ハノーヴァー等からベルリンに出てきた4人はベルリン芸術大学で学び、12年にヴィジョン弦楽四重奏団を結成した。すでにライプツィヒ・ゲヴァントハウス、ベルリン・コンツェルトハウス、ハンブルクのエルプフィルハーモニーといった有名ホールに出演している。今年6月にはロンドンの名門ウィグモア・ホールにデビューした。初めてのCDにメンデルスゾーンの「弦楽四重奏曲第6番」とシューベルトの「死と乙女」を録音したばかりだ。

「クラシックは音楽とアーティストのみで観客は聴くだけだから、ちょっと悲しい。YouTubeやビデオ、映画のあるこの時代に、クラシックもいろいろなカラーの照明を使ったりして、それぞれの作品のムードの中に観客を連れて行きたいですね」(レオナルド・ディッセルホルスト、チェロ)

 日本公演ではハイドンの弦楽四重奏曲op.77-1、バツェヴィチの第4番、シューベルト「死と乙女」などに加えて、ポップスやロックなども演奏するという。ホールで何が起きるのか楽しみにしていよう。
取材・文:秋島百合子
(ぶらあぼ2019年10月号より)

2019.10/21(月)19:00 武蔵野市民文化会館(小)(0422-54-2011)
10/24(木)19:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ(075-711-3231)
10/25(金)19:00 王子ホール(03-3567-9990)
※公演によりプログラムは異なります。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tvumd.com/