沼尻竜典(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

メッセージを持った重量級の作品二曲を

 
 東京フィルの6月定期は、沼尻竜典が「田園」「大地の歌」という大曲を二つ並べた。
 「田園」は「運命」で形式美を突き詰めたベートーヴェンが、交響曲のがっちりとした構造に描写性をミックスした意欲作。田園風景を前にして弾む心が活写され、小川のほとりでの散策、村人たちの愉快な踊りへと続き、激しい嵐が去った後には牧人の歌が聞こえてくる。

 ワーグナーのヘルデン・テノールとしても著名なダニエル・ブレンナ(テノール)、力強い表現力が魅力の中島郁子(メゾソプラノ)の布陣で臨む「大地の歌」は、李白や孟浩然らの漢詩のドイツ語訳に音楽を付けた交響的連作歌曲。青春や美について思索を巡らした後、友との別れに終わる。第九交響曲のジンクスを晩年のマーラーが嫌い、交響曲と銘打たなかったという逸話が有名だ。

 ところでこの重量級プログラムには、明確なメッセージが表れている。沼尻といえばかつて東京フィルの正指揮者を務めたが、その後独リューベック歌劇場を率い、また現在はびわ湖ホールの芸術監督の任にもあって、いまやオペラ・シーンに欠かせない存在だ。東京フィルは、言わずと知れた新国立劇場の公演を支えるメインのオーケストラ。オペラにかかわる音楽家は、音で物語る力を日常的に養っている。彼らは日本の“音語り”の最高のコンビなのだ。リハーサル回数も増やして臨むというから、これらの交響的作品もきっとオペラティックなドラマへと練り上げてくれるに違いない。自然と生命に思いを馳せる充実したひと時が過ごせそうだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年6月号より)

2019.6/14(金)19:00 サントリーホール
6/16(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
http://www.tpo.or.jp/