東京芸術劇場 コンサートオペラ Vol.1《青ひげ公の城》

男の“記憶の城”にようこそ

井上道義 (c)Orchestra Ensemble Kanazawa

夫の秘密を暴き、愛の勝利を宣言したい妻。しかし、男の自信は揺るぎもしない。20世紀ハンガリーの大作曲家、バルトークの傑作《青ひげ公の城》は、管弦楽が“音の濃霧”のようにステージを包み込む中で、神秘的なドラマが展開する異色のオペラである。
マエストロ井上道義曰く「《青ひげ公の城》の世界とは、すべての男が心に持つ“記憶の城”です。女性は切り替え&割り切りの“上書き機能つき記憶回路”を持っていて昔と今が交差しない。でも、男はそうじゃない。過去の愛と現在の愛が両立することが多いんだ!」とのこと。彼の解釈では、オペラの『七つの扉』は青ひげ(コヴァーチ・イシュトヴァーン)の心に棲む過去の7人の女性を指し、新妻ユーディト(メラース・アンドレア)と恋愛の主導権を巡って争った青ひげが、最後には彼女をも“記憶の城”に仕舞い込んで物語は完結するという。ならば、幕が降りた後のユーディトは一体どういうことに? 「過去の奥さんたちもユーディトも肉体的には城から脱出したでしょうが、青ひげの記憶の中では囚われたまま。そのあたりをどう描くかは当日までのお楽しみです。照明効果にもご注目下さい!」

仲代達矢

今回の公演では、語り役の吟遊詩人を名優仲代達矢が演じるのも話題。また、オーケストラがピットでなくステージ上で鳴るため、各楽器の音色もより鮮烈な色合いを帯び、沸き立つような響きが生まれるはずである。文化が交錯する地域でバルトークが育んだ独特な音の個性を、このオペラでまざまざと感じてみて欲しい。

文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2013年8月号から)

★9月13日(金)・東京芸術劇場
問:東京芸術劇場ボックスオフィス
0570-010-296
http://www.geigeki.jp/t
ローチケ