青木涼子(能アーティスト)

スペイン現代音楽と能・謡による新たな創造

C)Hiroaki Seo
 「日の出づる国」日本と「太陽の沈まぬ国」スペイン。両国の外交関係樹立150周年を記念して、「果てから果てへ」と題されたコンサートが開かれる。スペイン大使館が選んだ二人の優れた現代作曲家、ホセ・マリア・サンチェス=ヴェルドゥとブルーノ・ドッツァが、この日のために新作を書き下ろす。初演するのは、現代音楽とのコラボレーションを続けている能アーティスト・青木涼子だ。青木とスペインとの関わりは、2013年にさかのぼる。
「リーム作曲のオペラ《メキシコの征服》がマドリッドのテアトロ・レアル王立劇場でスペイン初演された際、マリンチェ役で出演しました。友人の美術家がオペラ総監督のG.モルティエに私を推薦してくれたのがきっかけでした」
 敵国の愛人となる通訳者マリンチェ。その重要な黙役を、能の舞で演じて話題となり、青木はその後もスペインで公演を続けてきたという。
「今回は、スペイン文化担当参事官の方と企画の段階から話し合い、謡とヴァイオリン、謡とチェロ、それぞれの新作を初演することになりました。チェロは私の声の低さと親和性が高いようです。ヴァイオリンと共演するのは今年初の試みです」
 共演は、スペインを代表するヴァイオリニストのリナ・トゥール・ボネトと、チェリストのアルド・マタ。
「ボネトはフェロモン高めなファッションとキャラクターの音楽家ですが、見た目とは裏腹に(!)渋さのある実力派。マタは教育者でもありスペイン国内でしっかり活躍している人。どちらもガット弦のピリオド楽器を用いていますが、まったく違うタイプの音楽家です」
 青木は国内外の作曲家に委嘱し、謡のレパートリー拡大に積極的に取り組んできた。
「謡をニュートラルに受け入れ、自分の音楽にしっかりと昇華できる作曲家の方々に依頼してきました。外国人の場合には、安直なオリエンタリズムや『折衷』に陥るのを避けるため、あえて日本をあまり知らない人を説得して曲を書いてもらっています。謡と西洋音楽の出会いは、必ずしも心地よい響きではないかもしれないし、違和感が引き出されるかもしれません。でももしかしたら、そこから面白いもの、新しいものが生まれるかもしれない。その可能性に賭けています。今回はスペインゆかりの作曲家たちがどんな作品に仕上げてくれるのか、私自身とても楽しみです」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年10月号より)

日本スペイン外交関係樹立150周年記念プロジェクト 果てから果てへ
2018.11/3(土・祝)15:00 Hakuju Hall 
※14:15よりプレトークあり
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
http://www.hakujuhall.jp/