今井信子(ヴィオラ)

ヴィオラという楽器はヴィオラを愛していないと音楽を伝えることができません

C)Marco Borggreve
 ヴィオラの世界的トップ・リーダー今井信子が、紀尾井ホール室内管弦楽団の第113回定期演奏会(9月)に独奏者として登場する。首席指揮者でウィーン・フィル・コンサートマスターのライナー・ホーネックの弾き振りによるモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調K.364」。
「ヴィオラで一番演奏機会が多いのがこの曲。オーケストラのヴィオラ・パートも2声部に分かれているので、通常の編成とは音色が全く違います。モーツァルトは自身もヴィオラを弾いていたのでこの楽器が好きだったのでしょうね」
 演奏者にとって、この曲でいつも問題になるのがスコルダトゥーラ(特殊調弦)。スコアには、独奏ヴィオラは半音高く調弦して、つまり半音低い運指で弾く指定がある。
「モーツァルトは、テンションが上がれば音が飛んでいくということをよくわかっていたんですね。私も、五嶋みどりさん、エッシェンバッハさんとの録音はスコルダトゥーラで弾いています。いつもスコルダトゥーラで弾きたいのですが、実際には、普段の活動のなかでこの曲だけ半音上げて弾くとなると、楽器にも負担がかかりますし、この音はこの指という身に付いた反応も全部変えなければなりません。一番良いのは、もうひとつ他の楽器を用意する方法ですね。どうするか、まだ考えているところです」
 初めて弾いたのは桐朋の学生時代。ヴァイオリンから転向してすぐの頃。
「齋藤秀雄先生に『この曲やりたいです!』と持っていきました。当時はまだみんな知らない曲で、私もレコードを聴いて勉強しました。今までに何度弾いたかわかりませんが、相手が変わるたびに全くアプローチも違うので、毎回一からの出発です。逆に、もうよく知っていると思ったら危ない。音楽がそこでストップしてしまいます」
 ホーネックとは、バレンボイム夫人エレーナ・バシュキロワが主宰するエルサレム国際室内楽フェスティバルで共演して以来の旧知の間柄。
「彼はとにかくリードが上手ですし、素晴らしい音楽家。今回もいろいろ影響を受けると思います」
 とその時、ホーネック本人が突如来訪。開口一番、「(調弦は)ニ長調にする?変ホ長調にする?」。やっぱり、まずそこかららしい。プログラム後半は「ハフナー・セレナーデ ニ長調K.250」というモーツァルト・プログラム。ヴィオラは、この楽器を愛していないと弾けないと言い切る今井。彼女と、ヴィオラ、モーツァルト、ホーネック。それぞれの“愛”がさまざまな方向に交錯するひとときとなるだろう。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年8月号より)

紀尾井ホール室内管弦楽団 第113回 定期演奏会
2018.9/21(金)19:00
2018.9/22(土)14:00
紀尾井ホール ※9/22公演は予定枚数終了。
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp/