海野幹雄(チェロ)

ブリテンの“無伴奏”をメインにした新シリーズに取り組みます!

Photo:Masahiko Uchiyama
 多方面でマルチな活躍を続けるチェリスト、海野幹雄。毎年9月に開催してきたソロ・リサイタルも昨年の10周年で節目を迎え、今年からは新たな出発。まずはブリテンの3曲ある無伴奏チェロ組曲を年に1曲ずつとりあげていくというシリーズだ。
「無伴奏チェロ組曲といえば、バッハ、レーガー、ブリテンなどがありますが、レーガーの作品がバッハの影響を強く受け、音型などをパロディのように取り入れているのに対し、ブリテンのスタイルは自由奔放、内容も独創的です。ロストロポーヴィチのために書かれた作品だけあって彼の影が濃厚で、演奏にはあのテクニックや音色が必要とされているような気もします。そういう意味でもどれも大曲なので、3年がかりでじっくりと取り組みたい。一緒にどういう作品を組み合わせるか、プログラムには頭を悩ませていますが(笑)」
 今回は20世紀に活躍した作曲家が集合。R.シュトラウスのチェロ・ソナタがいちばん古く1883年の作品。
「実は20年前にピアニストである妻(海野春絵)と初めて共演した時の曲で、それ以来、演奏はしていないはず。そしてR.シュトラウスがこのソナタを書いてから約100年後に作曲されたピアソラの『ル・グランタンゴ』も彼女とよく弾きますけれど、リサイタルでとりあげるのは今回が初めて。まさかのタンゴ曲ですが、お客さんにも和んでいただけるかと。自己鍛錬が目的で始めたリサイタルですが、いろんな方に足を運んでもらい、楽しんでいただけたら嬉しい!」
 ヒンデミットの「チェロとピアノのための3つの小品」からの〈カプリッチョ〉もユーモアに溢れた作品だ。
「取っ付きにくいイメージのあるヒンデミットですが、こんな可愛らしい小品もある…というか、曲が持つ多様性こそが彼の魅力なのです。自分にとっては大好きな作曲家で、いつかオール・ヒンデミットのプログラムを実現したいと狙っているのですが、いつも妻に“マニアック過ぎる”と大反対されます(笑)。でも自ら様々な楽器を弾きこなす才能を持ち、殆どの楽器のためにソナタを書き残した素晴らしい巨匠だと思う」
 このほか、メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」より〈イエスの永遠性への賛歌〉なども聴きどころ。
「ずっと演奏してみたかった。弾くほどに哲学的で敬虔な気持ちになる、とても美しい作品です」
 会場もこれまで恒例だった王子ホールからHakuju Hallに場所を移して心機一転。
「響きが美しく、静けさのレベルも凄く高い理想的なホールで、今回の選曲の背景となっている激動の20世紀に想いを馳せつつ耳を傾けていただけますように。引き続き、来年以降もどうかご期待下さい!」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2018年9月号より)

ブリテン:無伴奏チェロ組曲全曲演奏会(全3回)
第1回〜後期ロマン派から近代音楽への軌跡〜
2018.9/16(日)14:00 Hakuju Hall
問:新演03-3561-5012 
http://www.shin-en.jp/