岩田達宗(演出)

《夕鶴》は究極の恋愛劇なのです

 日本オペラ協会は、2月に東京、3月に兵庫、山形と秋田で、團伊玖磨作曲の名作オペラ《夕鶴》を上演する。今回のプロダクションは、2013年3月に兵庫県立芸術文化センターで初演されたもの。演出の岩田達宗は、国内外で800回以上も上演されているこの作品の本当のすがたを浮き彫りにしたいと語る。
「原作の木下順二が民話『鶴の恩返し』を戯曲にしようとしたとき、つうを演じた山本安英は、これは恋愛劇でなければダメだと主張したそうです。《夕鶴》は人間と鶴、と言う生物の種を超えた激しい恋愛劇です。因みに、“種”を超えた恋愛を描いたドラマは、ヨーロッパでもドヴォルザークのオペラ《ルサルカ》などがあります。が、日本の“『葛の葉』伝説”などのすごいところは子までなしてしまう点ですね」
 岩田によれば、つうが身を削って織る鶴の千羽織は、女性が命がけで生み出したもの、つまり子どもと同じなのではないか、という。女性にしてみれば、命をかけて産んだ子どもをお金にするなど決して許せることではない。一方、与ひょうがお金を手に入れたいのは都に行きたいからだが、それはつまり、愛するつうが美しいと言った都の風景の記憶を共有したいという思いゆえ。こうしたふたりの愛のすれ違いが、ドラマの核となっている。
「愛し合っているからこそ壊れてしまう、という救いのないドラマなんですが、そこで注目していただきたいのは、運ずの存在です。運ずは最初は、優柔不断で頭が悪くて弱虫で卑屈な、どうしようもない人間として描かれますが、物語が進むと、無理やり千羽織を織らせようとする惣どに『もうやめよう』『かわいそうだ』と言い始める。そしてついにラストシーンではつうと同じ台詞を口にするのです。人間は変わることができる、ということを表しているという意味で、運ずの存在はこの物語の中の救いであり、希望です」
 岩田が「つう、与ひょうと同じくらい重要な役」と語るこの運ずを演じるのは、柴山昌宣、清水良一という日本オペラ協会きっての芸達者なバリトン(ダブルキャスト)。そして、主役のつうは、満を持してこの役に挑むプリマドンナ佐藤美枝子と、新鋭ソプラノとして活躍中の伊藤晴というまったく違うタイプのふたりが演じる。「ロシア正教の“聖愚者”に似た存在」という与ひょうの描き方にも興味津々だが、中井亮一、中鉢聡というトップ・テノールふたりがどんな風に与ひょうを表現するか楽しみだ。
 “究極の恋愛劇”として描かれる《夕鶴》は、現代社会に生きる私たちに「本当の愛とは何か」を教えてくれるに違いない。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2018年2月号より)

日本オペラ協会 日本オペラシリーズNo.78 團伊玖磨 歌劇《夕鶴》
2018.2/17(土)、2/18(日)各日14:00 新宿文化センター
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874

2018.3/10(土)、3/11(日)各日14:00 兵庫県立芸術文化センター(中)
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255

2018.3/21(水・祝)14:00 山形/シェルターなんようホール(南陽市文化会館)
問:南陽市教育委員会社会教育課0238-40-8996

2018.3/24(土)14:00 秋田/湯沢文化会館
問:湯沢市湯沢文化会館0183-72-2121
http://www.jof.or.jp/