山根明季子(作曲)

雅楽のきらきらドローンに注目しています

 神奈川県立音楽堂で定期的に開催され、好評を博している伝統音楽シリーズ。今年は雅楽の古典作品とともに、気鋭の作曲家・山根明季子の委嘱新作「平成飾楽(へいせいかざりがく)」が世界初演される。浜松国際ピアノコンクールの課題曲やこの7月29日に初演されたばかりの合唱作品「お名前コレクションNo.02」など、矢次早に話題作を発表している山根。インタビューを行った7月末には新作はほぼ完成し、緻密に書かれたスコアを手に語ってくれた。
「伝統音楽との最初の出会いは子供の頃に聞いたお祭りのお囃子です。その後大学の授業で少し龍笛を学びましたが、2008年にみなとみらいホールの委嘱で藤原道山さんの尺八と西洋楽器のアンサンブルを書いたのが伝統楽器を用いた最初です」
 今回の委嘱は“新しい雅楽”がテーマ。山根は雅楽ならではの“型”を尊重して作曲したという。
「『水玉コレクション』のシリーズ以来、音の視覚性は私のテーマですが、最近は音の内側にある質感、テクスチュアに注目しています。雅楽の基本構造であるドローン(持続音)のきらきらした感触はそうした興味関心とも合致しました。私は街に出て様々な音を録音し、その構造や響きなどを解析するのが好きなのですが、雅楽の響きは、アミューズメント空間の中で多くの音が重なりあっている様を想起させ、宇宙とつながる感覚も持っていると思います。今回は五線譜を用いましたが、篳篥や龍笛、笙などの伝統的な役割をいかし、独特の時間の流れが反映するように工夫しました。『飾楽』という言葉には多色性という意味も込めていて、伝統的な音階以外にも、千年前にはなかったクラシック音楽の長短音階や三和音なども入れています。全体にとてもカラフルな作品になったのではないでしょうか。今回の委嘱作品を通じて、極めて洗練された雅楽のドローンの書法を学ぶことができました。今後の創作にもよい影響をもたらしてくれると思います」
 出演する東京楽所(とうきょうがくそ)は、宮内庁楽部楽師が中心となり、古典作品を非常に高度な水準で演奏する団体だ。彼らが新しい雅楽の世界をどのように開示してくれるのだろうか。
「神奈川県立音楽堂は木のぬくもりや匂いを感じさせるとても素晴らしいホールです。私の新作の他、昨年初演された佐々木冬彦さんの『その橋は天へと続く』もある一方、古典の定番『越天楽』を『残楽三返(のこりがくさんべん)』という遊び心のある演出でお聴きいただけますし、舞楽もご覧になれます。どうか五感をひらき、自然体、瞑想的な心地で楽しんでいただければと思います」
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

音楽堂伝統音楽シリーズ『ひびき、あたらし―雅楽』
10/1(土)15:00 神奈川県立音楽堂
問:チケットかながわ0570-015-415
http://www.kanagawa-arts.or.jp