トン・コープマン(指揮)

とびきりの名作を、生き生きとした演奏で!

©Eddy Posthuma de Boer
©Eddy Posthuma de Boer
 今秋、古楽界の巨匠トン・コープマンがアムステルダム・バロック管弦楽団を率いて日本公演を行う。東京では16年ぶり、大阪のいずみホールでは初となる待望のコンサートだ。
 同楽団は1979年にコープマンによって設立された。
「私の音楽人生の中で最も重要な存在です。私の音楽に共感する演奏家の集まりであり、音も表現も私の理想なのです。私のこだわりは、リズム、アーティキュレーション、幅広い強弱。これらのクオリティ・アップに最も寄与したのは、10年(1994〜2005年)に及ぶバッハのカンタータ全集の録音です。また日本におけるモーツァルトの交響曲全曲演奏も有意義な経験でした」
 今回は大看板のバッハ・プログラム。管弦楽組曲第3番・第4番、ブランデンブルク協奏曲第3番・第4番など、おなじみの名曲が並ぶ。
「多くの人が『ぜひ聴きたい!』と望む曲を集めました。管弦楽組曲は、とても愉しい音楽。第3番は当然『G線上のアリア』を味わっていただけますし、第4番のバスーンの響きも美しい。そして共にトランペットが華やかさを加えます。そこにブランデンブルク協奏曲から、後半の開始に相応しい第3番、2本のリコーダーが特別な味を醸し出す第4番をまじえた、明るいプログラムです」
 確かにどれもニ長調かト長調の作品だ。さらには他に2曲が加わる。
「シンフォニアBWV1045は、未完成の曲を私が完成させました。この滅多に演奏されない作品が日本のホールでどのように響くのか? 楽しみにしています。そしてカンタータ第42番のシンフォニア。これも有名な曲で、間違いなくバッハの名作です」
 彼は「バッハは詩のようなもの」と語る。
「深く、さらに深く、もっと深い…。私が惹かれるのは、全体を構成する偉大な建築家のような力です。いわば最低限の素材で家を作ってしまう。しかも感情と知性のバランスに優れ、素直に感動することもできれば、『あのハーモニーが素晴らしい』など、様々な視点で楽しむこともできます」
 コープマンの音楽は、古楽団体特有の鋭角的な表現ではなく、躍動感や愉悦感が特徴。だから聴いていて心が踊る。
「古楽演奏におけるアクセントは当初から不自然に感じていましたし、ビブラートも場面に即して控えめにかけるようにしています。それに何より聴衆が感じなければいけないのは“喜び”だと思っています。ライヴの演奏は毎回違います。中でもバロック音楽は、楽譜に最低限のことしか書かれておらず、装飾や即興が不可欠ですから、常に変化していきます。そうした“生きている音楽”を皆さんには体験してもらいたいと願っています」
 その魅力を、手兵との久々の公演で満喫したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

トン・コープマン(指揮) アムステルダム・バロック管弦楽団
10/1(土)16:00 いずみホール
問:いずみホールチケットセンター06-6944-1188
http://www.izumihall.jp
10/3(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999/AMATI 03-3560-3010
http://www.amati-tokyo.com