阪哲朗・鈴木秀美らが、関西クラシック界の“いま”をしめす「音楽クリティック・クラブ賞」贈賞式に登場

 関西圏で行われたクラシック音楽の演奏会の中から、優れた個人・団体・演奏会を顕彰する「音楽クリティック・クラブ賞」。7月23日、大阪市内で2025年の同賞の贈賞式が行われ、阪哲朗(びわ湖ホール 芸術監督)、鈴木秀美(神戸市室内管弦楽団 音楽監督)、唐谷裕子(演出家)らが出席した。

前列左より:服部孝司(神戸市民文化振興財団 理事長)、鈴木秀美(神戸市室内管弦楽団 音楽監督)、阪哲朗(びわ湖ホール 芸術監督)、村田和彦(同ホール 館長)
後列左より:倉田麻里絵(関西学院大学博物館 学芸員)、濱田琢司(同館 館長)、唐谷裕子(演出家)

 関西で活動している音楽評論家・音楽ライターなどで構成される「音楽クリティック・クラブ」により毎年、前年に行われた公演を対象に贈賞されている「音楽クリティック・クラブ賞」。最優秀と認められたものに贈られる本賞と、著しい成長を示し今後の活躍が期待されるものに贈られる奨励賞が設けられている。さらに、年によっては特別賞も授与され、2024年(昨年に贈賞)には井上道義が選出されている。

2025年 音楽クリティック・クラブ賞
本賞
びわ湖ホールプロデュースオペラ コルンゴルト作曲《死の都》(指揮:阪哲朗)
本賞
ベートーヴェン・ダブルビル「ミサ・ソレムニス」&「第九」(指揮:鈴木秀美)
奨励賞
演出:唐谷裕子(びわ湖ホール オペラへの招待《メリー・ウィドウ》)
特別賞
「十河巌がつくる文化の庭」(関西学院大学博物館)

 2025年の本賞には2公演が選ばれた。まず、びわ湖ホールが総力を挙げて制作する「プロデュースオペラ」として、3月1日&2日に上演されたコルンゴルト《死の都》。20世紀オペラを代表する傑作であると同時に屈指の難曲として知られており、その舞台上演は実に11年ぶりとなった。

「この作品は実は、私の監督就任前からすでにびわ湖ホールで上演することが決まっていました。以前の栗山昌良先生の舞台セットを使ってできないか、という話だったんですが、まずテノールを見つけるのがひと苦労です。ドイツで一度、指揮しているんですが、その時には《マイスタージンガー》をやってる劇場を片っ端から観て回って歌手を探したものでした。やはり、(主役・パウルを歌う)ヘルデンテノールというのはなかなかいないんですね。そんな作品をまさか日本で指揮するとは思っていませんでした。
 さらに難しいのは、この作品には楽譜に3桁を超えるミスがあるということです。その判断が難しくて音を拾うだけでもたいへんです。本当にわからないんですよ。例えば不協和音が作曲者がわざとぶつけたものなのか、単なるミスプリントなのか、そんな箇所がてんこ盛りです。京都市交響楽団は日本で最も《死の都》を演奏してきたオーケストラで、井上道義さんで2回、沼尻竜典さんで1回。僕で4回目なんですが、それでも今回は一つひとつ取捨選択を重ねて、歌手やオーケストラと一緒に解釈を丁寧に積み上げて公演に臨みました。苦労したのはやはりその部分ですね。
 オペラでこういった賞をいただく時には、僕の後ろに100人以上の人たちがいます。オーケストラ、歌手、舞台スタッフなど数多くの人々の力があって初めていただけるものです。その代表として表彰いただけたことを、たいへんありがたく思います」

左より:阪哲朗、村田和彦、中村孝義(音楽クリティック・クラブ)

 もう1公演は、神戸市室内管弦楽団と神戸市混声合唱団の合同定期演奏会として、11月15日&16日に行われた“ベートーヴェン・ダブルビル”。初日に「ミサ・ソレムニス」、2日目に「第九」を同じ演奏者・ソリストで取り上げ注目を集めたが、このチャレンジングな企画を発案したのは鈴木だったという。

鈴木「一般的に見て、2つの作品の知名度には大きな開きがあるように思えます。しかし私自身『ミサ・ソレムニス』を初めて本格的に勉強し指揮した時、その奥深さに圧倒されました。この作品を知らずに『第九』を語っていた自分を恥ずかしく思い、『第九』とともに『ミサ・ソレムニス』の魅力ももっと多くの方に知っていただきたいと強く思いました。そして、(音楽監督に就任してからの)この5年のあいだには、今回のベートーヴェンに至る流れを、ヘンデル『メサイア』、ハイドン『天地創造』といった作品を通してたどることで、音楽史を追体験していただく試みも実現することができました。
 ベートーヴェンの作品の中でも双璧を成す大作ですし、その公演をこのような形で評価してくださったことを、とてもうれしく思っています。今、われわれ神戸市室内管弦楽団は存続が危ぶまれている状況ですが、(今回の受賞は)そこに『これを無くしてはならない』という声としても届くのではないかと思っています。
 芸術作品は、初めから正当に評価されるとは限りません。認められれば認められるほど、反対の意見にもさらされていくものです。しかし、その価値を見いだし、次の世代へ受け継いでいくことが私たちの役割だと考えています。私は教師として学生にも『全員に好かれることを目指すのではなく、51%の支持を目指しなさい』と話しています。これからもその姿勢を大切にしつつ、神戸から新しい音楽との出会いをお届けしていきたいと思います」

左より:服部孝司、鈴木秀美、森岡めぐみ(神戸市民文化振興財団 音楽事業部長)

 奨励賞を受賞した唐谷は、びわ湖ホール「オペラへの招待」シリーズとして7月18日から21日に上演されたレハール《メリー・ウィドウ》の演出を手掛けた。同公演では《死の都》と同じく阪が指揮を務めており、「阪さんの指揮に対して、演出家として恥じない仕事ができるだろうか? 美しい音楽を少しでも引き立てられる舞台が創れるだろうか? その一心で作品に向き合いました」と当時を振り返った。また、特別賞は10月20日から12月13日にかけて関西学院大学博物館で行われた企画展「十河巌がつくる文化の庭」が受賞。大阪朝日会館(現フェスティバルホールの前身)の館長を務める一方で、関西交響楽団(現・大阪フィルハーモニー交響楽団)などの設立支援や、日本オペラの代表作・團伊玖磨《夕鶴》のプロデュースなどを手掛けた十河巌(1904~82)を特集したもので、関西クラシック界の豊穣をしめす贈賞結果となった。

文:編集部
取材協力・写真提供:音楽クリティック・クラブ