8月27日、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールが、2027年1月23日・24日に上演する「プロデュースオペラ」、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》の制作発表を開催。指揮を務める同ホール芸術監督の阪哲朗、演出家の中村敬一、大西宇宙(ドン・ジョヴァンニ役)、高田瑞希(ツェルリーナ役)らが登壇した。

大規模改修のため、今年7月から20ヵ月間にわたる全館休館に入っているびわ湖ホール。その休館期間中、新たな年の幕開けを飾るのが、同ホールが「創造する劇場」として総力を挙げて制作する「プロデュースオペラ」だ。今年3月に上演されたプッチーニ《トゥーランドット》は公演の2ヵ月前に完売するなど、根強い人気を集めている。阪は芸術監督に就任して以来、R.シュトラウス《ばらの騎士》(24年)、コルンゴルト《死の都》(25年)など後期ロマン派の傑作を中心に取り上げてきた。
今回の《ドン・ジョヴァンニ》は、今年開館40周年を迎える、県南西部の守山市民ホール 大ホールが舞台となる。1300席、オーケストラピット設置時は1160席とびわ湖ホールと比べるとやや小ぶりだが、音響面では県内でも指折りの豊かな残響を誇るという。当初はオーケストラを舞台上に乗せたセミステージ形式での上演が予定されていたが、演出の中村も同席した下見の結果、ピットを使用した通常の舞台上演へと舵を切り、守山市民ホールの舞台特性を活かした“Moriyama Edition”としての制作が決定した。
フォルテピアノの弾き振りで指揮を務める阪哲朗。ホールの規模が小さくなることをメリットとして届けられるよう、より小編成のモーツァルトの作品を選んだ一方で、歌手陣に関しては公募のオーディションは行わず、“1本釣り”でキャスティングを決めたという。
阪「《ドン・ジョヴァンニ》はモーツァルトのオペラの中でもかなり尖っていて、登場人物もいい意味で“何日もお風呂に入っていないような”(笑)人間臭い強烈なキャラクターばかり。音楽的にも、晩年の彼が好んだ半音階が多用され、そのデモーニッシュな響きは後世の作曲家たちにも大きな影響を与えたのではないかと考えています。
今回はフォルテピアノの弾き振りで臨みますが、これは僕が24歳で欧州の歌劇場に就職して以来培ってきた、職人技といえるものです。指揮者が自ら鍵盤楽器を弾くことで、場面間の繋がりが滑らかになり、ドラマの流れが途切れなくなります。ただ、《ドン・ジョヴァンニ》はレチタティーヴォとアリアや重唱の繋がりが非常にアクロバティックで、曲芸的な難しさがある。僕自身、弾き振りした回数はモーツァルト作品の中では一番少ないので、大きな挑戦になると思います」

この阪とタッグを組むのが、びわ湖ホールで数々のオペラ演出を手掛けてきたベテラン・中村敬一だ。両者は、今年同ホールならびに新国立劇場で上演された林光の《森は生きている》でも大成功を収めたばかり。
中村「建物は閉じていても、びわ湖ホールの“頭脳”にあたるスタッフたちは活動を続けています。その知恵を結集し、“これぞびわ湖ホールの力なんだ”と感じていただけるような本格的な舞台上演を実現したいと考えています。《ドン・ジョヴァンニ》は、演出家デビューを果たした特別な作品。僕は、ドン・ジョヴァンニという人物を“月”、その周りを取り巻く3人の女性――アンナ、エルヴィーラ、ツェルリーナ――は彼を照らす“太陽”だととらえています。キャラクターの全く異なる3人の女性たちに照らされてこそ、月が美しく、そして妖しく輝くわけです。今回は、いつもより一回り小ぶりなステージを活かして、その人間関係がより密にクローズアップされるよう工夫していきます」

2日間にわたり、ダブルキャストで上演される「プロデュースオペラ」。その初日のタイトルロールを務めるのは、世界的に活躍するバリトンの大西宇宙。びわ湖ホールは、2021年の《ローエングリン》で自身のワーグナーデビューを飾り、23年《ニュルンベルクのマイスタージンガー》にも出演、人生の一つの節目となる機会を与えられた場所だという。
大西「ドン・ジョヴァンニ役は、演じた機会がそれほど多いわけないのですが、なぜか『当たり役ですね』と言われたり、私生活もそんな感じなんじゃないかと思われたり……歌う前からちょっとした風評被害を受けているような感じです(笑)。モーツァルトのダ・ポンテ三部作は、その時代にすでに足音が聞こえていたフランス革命が切り離せないテーマだと考えています。そして、『自由・平等・博愛』を体現した人物こそがドン・ジョヴァンニなんじゃないかと。アンナには自由を、(身分の違う)ツェルリーナには平等を、エルヴィーラには博愛を与えようとしたのではないか。“自分の演じる役を善悪でジャッジしない”というのが僕の役者哲学です。彼なりのジレンマや地獄、光と影の二面性を引き出せるように演じられたらと思います」

ドン・ジョヴァンニを取り巻く女性の中で、ひときわコミカルかつ素朴な役柄のツェルリーナを初日に演じる高田瑞希。びわ湖ホールが誇る「声楽アンサンブル」のメンバーで、今年のBunkamura「未来の巨匠コンサート」にてソリストの一人に抜擢されるなど、着実に地歩を固めているソプラノだ。「プロデュースオペラ」で声楽アンサンブルのメンバーが主要キャストに抜擢されるのは珍しいということで、その期待の大きさが窺える。
高田「大学4年生の時、《ドン・ジョヴァンニ》を勉強する機会があったのですが、ちょうどコロナ禍で、パーテーション越しに歌う形で手を繋ぐこともできず、『プロになったらまずやってみたい』と心の中で願い続けていました。ツェルリーナは、ドン・ジョヴァンニの甘い言葉にすっかりその気になってしまうような可愛らしさがある一方で、夫のマゼットは上手にキープするしたたかさも併せ持つ女性。その魅力をしっかりと表現したいです。稽古から第一線で活躍される皆さんの技術や演技を間近で学び、ソリストとしてさらに成長できるよう、本番に向けて全力で挑みます」

会見の中で、「ホーム(びわ湖ホール)だけではなく、ビジターとして異なる会場で“勝って”、新しいファンを作る」ことの重要性を語った阪。本拠地を離れてなお発揮される、びわ湖ホールの「劇場としての総合力」に期待したい。
文:編集部
写真提供:びわ湖ホール
【Information】
びわ湖ホール プロデュースオペラ Moriyama Edition
守山市民ホール開館40周年記念公演
モーツァルト作曲 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》(全2幕)
イタリア語上演・日本語字幕付
2027.1/23(土)、1/24(日)各日14:00 守山市民ホール 9/5(土)一般発売
指揮・フォルテピアノ:阪哲朗(びわ湖ホール芸術監督)
演出:中村敬一
キャスト(1/23/1/24)
ドン・ジョヴァンニ:大西宇宙/池内響
騎士長:妻屋秀和/松森治*
ドンナ・アンナ:伊藤晴/船越亜弥*
ドン・オッターヴィオ:奥本凱哉**/福西仁**
ドンナ・エルヴィーラ:並河寿美/中島郁子
レポレッロ:迎肇聡*/平野和
マゼット:青山貴/市川敏雅*
ツェルリーナ:高田瑞希**/石橋栄実
*びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー
**びわ湖ホール声楽アンサンブル
合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:京都市交響楽団
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp
