INTERVIEW 板倉康明——“近くて遠い”中国の現代音楽を東京シンフォニエッタが特集

 東京シンフォニエッタ(TS)は、現代の音楽作品を高い専門性をもって演奏し、聴衆に紹介することに特化した室内オーケストラだ。今年7月にはブーレーズの超難曲、デリーヴ第1番と第2番を高水準の演奏で聴かせて、絶賛されたばかりである。

 12月の定期演奏会では、現代中国の作品を取りあげる。「デリーヴのきつさにくらべれば、もう何をやっても大丈夫な気がする」と笑うTSの代表・音楽監督の板倉康明は、その意図をこう語る。

 「大きなきっかけは、2024年10月にTSが杭州の現代音楽祭に招かれたことです。中国でも現代音楽がとても活発に作られていることを知り、次の定期は中国人の作曲家でそろえようと思いました。杭州に招待してくださった郭元さんと温德青さんは現代中国の重要な作曲家です。この二人とそれぞれの弟子の馬方欣さんと张彤芬さん、さらに2020年度武満徹作曲賞で第1位を受賞した王心阳さんの新作を演奏します。馬さんの曲は世界初演、他の4曲も日本初演です」

 いまは日本の音楽大学や大学院でも、多くの中国人が作曲を学んでいるそうだ。しかしその作品がどんなものなのかは、日本では譚盾(タン・ドゥン)などごく一部の作曲家以外はほとんど知られていない。こと音楽に関しては近くて遠い、遠くて近い国なのである。

 「純粋にその芸術、音楽を伝え、問題提起したいのです。海外の優れた作品の楽譜を真摯に読み、客観的で正確な演奏で日本に紹介し、次世代につなぐことがTSの使命ですから」

 欧米でも学んだ作曲家の場合においても、その音楽にはヨーロッパとは異なるオリジナリティがある。模倣ではなく、「自分が書きたいものを書くのに、西洋音楽のシステムが便利で使いやすいから使っている」という印象を受けるそうだ。今回、演奏する5人の作曲家を日本に招き、東京文化会館の小ホールの響きと日本人の演奏をどう思ってもらえるか、そして日本の聴衆がどう感じるかも、とても楽しみだという。

 「今までなかなか取り上げることもなかった、近隣の人たちの音楽をみんなで聴いてみましょう。いろいろな世代の作曲家の作品です。1回聴いてみて、私たちと比べたり、共感したり。好き嫌いも含めて、自由に感じてみてください」

 まずは自分の耳で聴き、体験してみることから、すべては始まる。玉石混淆の情報がSNSなどに氾濫する現代だからこそ、貴重な体験の機会となるだろう。

取材・文:山崎浩太郎

(ぶらあぼ2025年12月号より)

東京シンフォニエッタ 第58回 定期演奏会「近隣への眼差し、中国の作曲家たち」
2025.12/11(木)19:00 東京文化会館(小)
問:AMATI 03-3560-3010 
https://www.amati-tokyo.com


山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
Facebookページ https://www.facebook.com/hambleauftakt/