音楽と舞台効果でキラキラ輝くドラマティックな世界を表出〜NISSAY OPERA《サンドリヨン》ゲネプロレポート

 シャルル・ペローの童話『シンデレラ』の物語を、19世紀フランスの作曲家マスネがオペラ化した《サンドリヨン》。世界中で人気の高い作品だが、日本ではプロのオペラ団体による上演機会はそれほど多くない。この作品を、近年フランス・オペラに積極的に取り組んでいる日生劇場が、オペラやミュージカルをはじめ多彩なジャンルで活躍する広崎うらんによる演出で、11月15日、16日に上演する(他に中学・高校生を対象にした日生劇場オペラ教室でも4公演を予定)。15日組の最終総稽古(ゲネラルプローべ)を取材した。

(2025年11月 日生劇場 取材・文:室田尚子 撮影:ヒダキトモコ 提供:日生劇場)

中山晃子による「アライブペインティング」を幕に投影
左から4番目:北川辰彦(パンドルフ)

 幕が開く前に、主人公リュセットの父親であるパンドルフ(北川辰彦)と、仕立て屋(川竹麻耶・ダンサー)が登場。観客をおとぎ話の世界へと誘うやりとりがあるが、これは元々あった登場人物たちが自己紹介をする「プロローグ」が初演前に削除された経緯を踏まえていると思われる。序奏が始まると、幕にキラキラと輝くラメや砂粒のようなものが動き出す映像が投影される。これは中山晃子による「アライブペインティング」で、実際に客席で中山が音楽に合わせてその場でつくっているそうだ。

 第1幕はド・ラ・アルティエール夫人の邸宅で、舞台上にはアール・ヌーヴォー風の曲線が活かされた装置が置かれている(この装置は裏側が大階段になっており、第2幕の王宮の舞台となる)。主人のパンドルフは、高慢な伯爵夫人と再婚してしまった過ちを嘆く。その後、濃い赤紫の髪をうず高く結い上げた夫人(齊藤純子)と、ピンクの髪をした2人の姉娘(市川りさ、藤井麻美)が登場。仕立て屋、帽子屋、美容師を呼びつけて着飾ると王宮で開かれる舞踏会へと出かけていく。

左より:市川りさ(ノエミ)、齊藤純子(ド・ラ・アルティエール夫人)、藤井麻美(ドロテ) 
下段:盛田麻央(サンドリヨン/リュセット)

 家に残されたリュセット(盛田麻央)が眠ってしまうと、そこに妖精(鈴木玲奈)が現れ、眠ったままのリュセットを魔法の力で美しく変身させる。継母と姉娘たちのドレスがシルバーを基調としたやや近未来を感じさせるものだったのに対し、リュセットが纏うのは純白のクラシカルなドレス。ちなみに、この後舞踏会にやってくる各地の姫たちの衣裳も継母たちと同じシルバーで、キャラクターの性格や立場の違いが一見してわかる工夫を感じた(衣裳は武田久美子)。

 舞台上には6人のダンサーが精霊役として登場するが、女性ダンサーがトウシューズを履いているのが目を惹く。オペラにダンサーを起用するのはもはや当たり前となっているが、トウシューズで踊るのは珍しい。トウで踊るために生まれる独特の浮遊感が、マスネのファンタジックな音楽ととてもマッチしており、このあたりはさすがダンサーでもある広崎うらんならではと思わされる。

中央:鈴木玲奈(妖精)
杉山由紀(王子)

 第2幕は王宮での舞踏会。ラストはガラスの靴を残してリュセットが王子(杉山由紀)の前から姿を消すおなじみのシーンだが、ディズニー映画では階段を駆け下りていくところ、今回リュセットは階段を駆け上っていく。従来のイメージを逆転させている点がもうひとつ。リュセットはショートヘアなのに対して、王子が金髪のロングヘアなのも面白い。広崎演出は、プラン自体に特段の新しさがあるわけではないのだが、こうした観客を「魅せる」仕かけが随所に施されており、よく知っている「シンデレラ」の世界を新たなテイストで具現化している点が、とても好感が持てるものになっている。

 第3幕では、王子に愛されていないと思い込んだリュセットが一人で死のうと家を出ていくと、そこに妖精たちの世界が出現する。ここでは装置に「アライブペインティング」がマッピングで投影され、照明(中川隆一)との相乗効果で実に幻想的な世界が出現していた。本プロダクションの山場といえる。
 
 ゲネプロなので歌手の出来に関しては正確な評価はできないものの、盛田麻央、杉山由紀、鈴木玲奈をはじめ歌手陣はとても高水準。また、柴田真郁指揮の読売日本交響楽団は、キラキラと輝く夢の世界からドラマティックな人間の心の内側まで、丁寧に繊細に描き出していた。少女の憧れ、夢、恋、勇気、絶望、そして幸福を描いた「シンデレラ」の物語を、「音」によって紡ごうとするこのオペラの本質を存分に感じられるプロダクションである。

NISSAY OPERA 2025
マスネ《サンドリヨン》新制作

(全4幕、原語[フランス語]上演・日本語字幕付)

2025.11/15(土)、11/16(日)各日14:00 日生劇場

指揮:柴田真郁
演出・振付:広崎うらん
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ

出演
サンドリヨン(リュセット):盛田麻央(11/15)金子紗弓(11/16)
シャルマン王子:杉山由紀(11/15)山下裕賀(11/16)
妖精:鈴木玲奈(11/15)横山和美(11/16)
ド・ラ・アルティエール夫人:齊藤純子(11/15)星 由佳子(11/16)
パンドルフ:北川辰彦(11/15)河野鉄平(11/16)
ノエミ:市川りさ(11/15)別府美沙子(11/16)
ドロテ:藤井麻美(11/15)北薗彩佳(11/16)

問:日生劇場03-3503-3111 
https://opera.nissaytheatre.or.jp

https://opera.nissaytheatre.or.jp/info/cendrillon2025/
※山下裕賀は11月16日公演に出演。
 公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。