日本が誇るトップ・プレイヤーによる弦楽三重奏を、家康生誕の地で聴く!~「アンサンブル天下統一2025」

長原幸太(ヴァイオリン)&鈴木康浩(ヴィオラ)&中木健二(チェロ)が11月、岡崎に集結!

 アンサンブル天下統一。クラシックのアンサンブル名で、これほど強烈なインパクトを放つものはあるまい。ヴァイオリンの長原幸太、ヴィオラの鈴木康浩、チェロの中木健二という日本のトッププレーヤー3人が、2013年に岡崎市シビックセンターのコンサートホール「コロネット」のレジデント・アンサンブルとして結成したのがアンサンブル天下統一である。愛知県岡崎市といえば徳川家康生誕の地。「岡崎発信で音楽のすばらしさを天下に伝える」というモットーを掲げる。ヴァイオリンの長原幸太はNHK交響楽団第1コンサートマスター。ヴィオラの鈴木康浩は読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者。チェロの中木健二は岡崎市出身で東京藝術大学音楽学部准教授。これだけの名手が岡崎に集結するとなれば、なるほど、天下統一を謳っても不思議はない。

アンサンブル天下統一(左より:長原幸太、中木健二、鈴木康浩) ©ノザワヒロミチ

 そのアンサンブル天下統一が11月30日、ハンガリーの音楽とベートーヴェンを組み合わせたプログラムを披露する。会場は岡崎市せきれいホール(「コロネット」が改修工事中のため)。ドホナーニの弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調、ヴェイネルの弦楽三重奏曲 ト短調、ベートーヴェンの弦楽三重奏のためのセレナード ニ長調という弦楽三重奏づくしのプログラムである。

 おもしろいのは弦楽三重奏という編成だ。弦楽器奏者による室内楽といえば、まっさきに思いつくのは弦楽四重奏。弦楽四重奏曲であれば大作曲家たちが残した豊富なレパートリーがある。そこをあえて弦楽三重奏でユニットを組むところに妙味がある。この編成であれば、必然的にプログラムはフレッシュで意欲的なものになる。加えて、弦楽三重奏では3人それぞれの個のキャラクターが生かされる。弦楽四重奏では第1ヴァイオリンを中心としたメンバー全員の調和が肝だが、弦楽三重奏はどこまで行っても個のぶつかり合いだ。全員が主役であり、存在感を発揮する。その意味でも、高い技量を持った3人による弦楽三重奏には格別の楽しさがある。

過去の公演の様子

 プログラムの聴きどころは多い。ハンガリーの作曲家ドホナーニの弦楽三重奏のためのセレナードは、この分野の名作といってよいだろう。セレナードという古典派の枠組みをロマン派のスタイルでよみがえらせた作品だ。同じハンガリーのヴェイネルは、決して知名度は高くないが、幼少時より神童として知られ「ハンガリーのメンデルスゾーン」と称された作曲家である。弦楽三重奏曲 ト短調は20世紀に作曲されながらも、ロマン派の書法で書かれた清新な作品だ。そして、ベートーヴェンの弦楽三重奏のためのセレナードは、若き日の快作。ここでのベートーヴェンはパリッとした新進気鋭の青年音楽家だ。セレナードという娯楽的な分野において、己の力を得意満面で発揮するような趣がある。弦楽三重奏ならではの音楽の愉悦をたっぷりと味わいたい。

文:飯尾洋一


アンサンブル天下統一2025
2025.11/30(日)15:00 岡崎市せきれいホール

♪出演
アンサンブル天下統一【長原幸太(ヴァイオリン)、鈴木康浩(ヴィオラ)、中木健二(チェロ)】

♪曲目
ドホナーニ:弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調 op.10
ヴェイネル:弦楽三重奏曲 ト短調 op.6
ベートーヴェン:弦楽三重奏のためのセレナード ニ長調 op.8

問:岡崎市シビックセンター0564-72-5111
https://www.civic.okazaki.aichi.jp


飯尾洋一 Yoichi Iio

音楽ジャーナリスト。著書に『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』新装版(三笠書房)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『マンガで教養 やさしいクラシック』監修(朝日新聞出版)他。音楽誌やプログラムノートに寄稿するほか、テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザーなど、放送の分野でも活動する。ブログ発信中 http://www.classicajapan.com/wn/