脇岡洋平(ピアノ)が“1908年”を軸に描くスクリャービン&ラフマニノフの真髄

©井村重人

 繊細な小品を慈しむように奏で、技巧的な独奏曲や協奏曲では壮大な響きを紡ぐピアニスト、脇岡洋平。東京藝術大学を経て、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学やブダペストのリスト音楽院で研鑽を積み、現在は日本大学芸術学部教授として後進の指導にも力を注ぐ。そんな脇岡が、「1908年」をテーマとしたリサイタルを開催する。

 この年は、スクリャービンとラフマニノフが、ともに学んだモスクワ音楽院ピアノ科を卒業して17年。前者はピアノ・ソナタ第5番、後者は第1番を初演した年である。スクリャービンはこの作品から神秘主義的傾向を強め、単一楽章形式へと傾倒。対してラフマニノフは、伝統的なソナタ形式に則って重厚長大な世界を築いた。対照的な2作を並べる脇岡の試みが、二人の音楽家、そしてロシア・ピアニズムの奥深い魅力を浮き彫りにすることだろう。スクリャービン若き日の「左手のための2つの小品」の抒情的な小品世界にも着目したい。

文:飯田有抄

(ぶらあぼ2025年7月号より)

脇岡洋平 ピアノリサイタル -1908-
2025.8/7(木)19:00 東京文化会館(小)
問:プロアルテムジケ03-3943-6677 
https://www.proarte.jp


飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)

音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。