
ジョナサン・ノット&東京交響楽団が第二次世界大戦終戦80年の節目に、ブリテンの「戦争レクイエム」を上演する。「戦争レクイエム」は、大編成のオーケストラおよび室内オーケストラ、3人の独唱者、児童合唱、混声合唱を要する巨大な作品。ウィルフレッド・オーウェンの詩とラテン語の典礼文をテキストとしている。
もともと第二次世界大戦で交戦した3ヵ国から、ソビエト連邦のガリーナ・ヴィシネフスカヤ、イギリスのピーター・ピアーズ、ドイツのディートリヒ・フィッシャー=ディースカウを独唱者とすることを想定して作曲され、1962年の世界初演では、ヴィシネフスカヤがソ連当局の介入により不参加になったが、ピアーズとフィッシャー=ディースカウが敵対した兵士二人を歌った。第6曲「リベラ・メ」で、死者の世界で敵対する兵士二人が再会し、「僕は君が殺した敵なんだ、友よ」と告げるくだりには今聴いても震撼させられる。筋金入りの平和主義者ブリテンの反戦のメッセージは現代でこそ必要である。
今回の上演では、ロシアからガリーナ・チェプラコワ、イギリスからロバート・ルイス、ドイツからマティアス・ウィンクラーが招かれる。合唱は、ノットが全幅の信頼を寄せる東響コーラス。児童合唱は東京少年少女合唱隊。ノットが母国イギリスを代表する作曲家の大作を取り上げるこのコンサートは、ラスト・シーズン(12シーズン目)を迎えたこのコンビにとって集大成の一つとなるであろう。
文:山田治生
(ぶらあぼ2025年7月号より)
ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団
川崎定期演奏会 第101回
2025.7/19(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
第732回 定期演奏会
7/21(月・祝)14:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp

山田治生 Haruo Yamada
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。雑誌や演奏会のプログラム冊子に寄稿。著書に「トスカニーニ」、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」、「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方 」、編著書に「戦後のオペラ」、「バロック・オペラ」、「オペラガイド」、訳書に「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」などがある。