
マリオ・ブルネロが指揮すれば、オーケストラは大きなチェロになる。「チェロ、オーケストラと楽器は変わっても、結局は自分自身の声、人生や経験を表現していくことになるのだと思う」とかのイタリアの名音楽家は言うが、伸びやかな天分と冒険心が広大な共感を呼び起こすようにしてオーケストラを歌に満たすのが、指揮者としてもブルネロの最大の魅力となってきた。チェロをいっしょに弾くなら、なおさらだ。紀尾井ホール室内管弦楽団とはお馴染みだし、昨秋の水戸室内管弦楽団に続き、この初夏、東京交響楽団との共演が聴けることになった。
さて、ブルネロが近年とくに情熱をかけて探求してきたのが、ミェチスワフ・ヴァインベルク(1919〜96)の音楽である。「これほど深いものを与えられた新しい作曲家はそういない」と称え、「シアトリカルな部分が非常に魅力的だ」と昨秋にも語っていた。4作の無伴奏ソナタの録音もまとめているが、今回は水戸でも採り上げたチェロ・コンチェルティーノop.43bisとシンフォニエッタ第2番 op.74に再び取り組む。
「ヴァインベルクとショスタコーヴィチとは互いに影響を与え合った友人どうし」とみるブルネロが、もう一曲弾き振りするのがシューマンのチェロ協奏曲、これに今年で没後50年となるショスタコーヴィチが編曲の手を加え、自らのop.125としてロストロポーヴィチに献呈した版で採り上げる。ハイドンのト長調交響曲「軍隊」と合わせて、古典、ロマン派から、1960年代にいたる壮大な音楽の旅が織りなされる。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2025年6月号より)
マリオ・ブルネロ(指揮/チェロ) 東京交響楽団
東京オペラシティシリーズ 第145回
2025.6/21(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp