秋のサントリーホールの風物詩となっている音楽祭「サントリーホール ARKクラシックス」。そこで結成されるレジデント・オーケストラ「ARKフィルハーモニック」が、この夏、待望のツアー公演を行う。東京、富山、長野、長崎、広島、福岡、大阪、愛知の全国8ヵ所、大規模なツアーが実現する。

2019年に「ARKシンフォニエッタ」として活動を開始、回を重ねるごとに編成を拡大していき、24年に「ARKフィルハーモニック」と名称を変更。とはいえ活動の軸は変わることなく、同音楽祭アーティスティック・リーダーのピアニスト辻井伸行とヴァイオリニスト三浦文彰が中心となり、国内屈指のプレイヤーたちが集う、いわば国内ドリームチームのオーケストラが期間限定で結成されるのである。
大きな特徴は、ARKフィルのアーティスティック・ディレクターとして三浦文彰が指揮者をつとめ、レジデント・ピアニストとして辻井伸行が出演すること。三浦はヴァイオリンの弾き振りだけでなく、指揮者としてシンフォニーを振り、毎年スケール大きな熱演を重ねて成果をあげている。ARKフィルの指揮者としてすでに6年を経て、もう「ヴァイオリンに加えて指揮もすばらしい」というのも失礼かもしれない。「指揮者・三浦文彰」としての現在地と覚悟を広く示そうというタイミングでのツアー、その意気込みの強さはかなりのものだろう。

辻井伸行のピアノ協奏曲もARKフィルの大きな名物となっている。三浦と辻井はデュオで意気投合して以来、アンサンブルからコンチェルトまで、さまざまな組み合わせで共演を重ねてきた。このツアーではチャイコフスキーの第1番とベートーヴェンの第5番「皇帝」の2大協奏曲が予定されている。幾度も共演して息の合った彼らがツアー各地で改めて臨む名作協奏曲、ひと味違ったパフォーマンスになるはず。
ほかにも協奏曲演目が充実している。三浦がソリストとして弾き振りするモーツァルト「トルコ風」とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲では、彼のアーティストとしての充実がヴァイオリンで示される。さらに、フルート高木綾子とハープ吉野直子という名ソリストを迎えてのモーツァルト「フルートとハープのための協奏曲」も用意されており、世界基準の典雅な名奏が味わえるだろう。

そして、三浦の指揮による交響曲は、ベートーヴェンの第5番「運命」とブラームスの第1番。王道のシンフォニーにはこれまでも取り組んできたし、トップクラスの奏者ばかりのオーケストラだけにレベルの高さは保証されている。三浦文彰の父親である東京フィルのコンサートマスター三浦章宏も参加し、これまでもARKフィルでのメイン曲では同じくコンマスを務めてきた。誰よりも気心の知れた関係でオケをリードする頼もしい存在だし、今回のブラームスでのソロも聴きどころになる。あらゆる条件のそろったオーケストラに、いまの三浦文彰がどんな表現を加えるのか、どれほど充実した響きと力強さを引き出すのか。その充実感と興奮を全国で体験できる好機だ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年5月号より)
辻井伸行(ピアノ) 三浦文彰(指揮/ヴァイオリン) ARKフィルハーモニック
2025.8/1(金)14:00 東京(5/25発売)
8/2(土)14:00 富山
8/3(日)15:00 長野/上田(5/24発売)
8/6(水)18:30 長崎/佐世保(5/18発売)
8/8(金)19:00 広島
8/9(土)15:00 福岡
8/10(日)15:00 大阪
8/11(月・祝)13:30 名古屋(完売)
https://avex.jp/classics/arkphilharmonic2025/
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。