細川俊夫が初めて子どものために作曲した語り手とアンサンブルのための「遠くから来たきみの友だち」が、4月4日に東京の成城ホールにて日本初演される。この作品の朗読テクストは、ベルリン在住の作家、多和田葉子が「浦島太郎」の物語を題材にドイツ語で書き下ろした。世界初演は2021年12月にルクセンブルクで行われている。3月20日に同ホールで開催されるチェリストの上野通明とピアニストの北村朋幹のデュオ・リサイタルのスピンオフとして、子どものための公演を企画していたところ、細川から本作について聞いていた北村が日本初演を提案し実現した。今回の上演ではドイツ文学者の山口裕之による翻訳テクストが用いられる。

北村「子どものためのコンサートを企画するにあたり、大人が子どもに与えるようなものにはしたくありませんでした。“こどものための”と銘打たれている名作は数多くありますが、それはもしかしたら、戻ることのできない時間への、憧憬のようなものなのかもしれません。クラシカルな音楽への憧れ、ノスタルジーなどが、細川さんの書法の中で混ざり合って、夢の中にいるような幻想的な世界が作り上げられていきます」
上野「細川さんの作品は横の流れを大切にした“線の音楽”であることが特徴で、この作品にもそうしたスタイルが見られます。オリジナルではドイツ語のリズムのある響きと細川さんの音楽のコントラストがとても面白かったのですが、今回の日本語上演ではそれらがどのように混ざり合って響くのか、とても楽しみです」

演奏者には上野、北村と同世代の名手たちが集う。ヴァイオリンの毛利文香、ヴィオラの田原綾子、フルートの上野由恵、クラリネットの西川智也、打楽器の西久保友広、そして語りを担うソプラノの藤井玲南。武生国際音楽祭などで細川の薫陶を受けた彼らは、この作曲家の音楽言語を熟知している。
北村「メンバーは細川さんと相談して決めました。フルートの上野さんをはじめ、信頼が厚い演奏家ばかりです。藤井さんには『遠くから来たきみの友だち』の語りのほか、細川さんが愛するシューベルトの歌曲も歌っていただきます。春にふさわしい名曲の数々を聴く時間は、続く細川作品の世界へ、自然と誘ってくれるでしょう」
上野と北村は、「子どもたちに真っさらな気持ちで自由に音楽を楽しんでほしい」と語る。春の柔らかな空気のなか、大人も童心に返って細川の音楽世界にどっぷりと浸かりたい。
取材・文:八木宏之
(ぶらあぼ2025年3月号より)
春休み特別企画
— 子どもと大人に贈る語りと音楽 — 遠くから来たきみの友だち
2025.4/4(金)15:00 成城ホール
問:せたがや文化財団 音楽事業部03-5432-1535
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