武満徹の「妖精の距離」を表題作としている当該盤は、初心者向けのコンセプト・アルバムであろうか? その解釈に立ち入ることは避けるが、単なるオムニバス小品からなる作品集ではない。アルバムの「核」は2つある。前半のベートーヴェンの「クロイツェル」と後半のグリーグである。それぞれその後には音楽史の時系列に沿った作品が並ぶ。最も印象に残ったのはベートーヴェンである。このヴァイオリン・ソナタは規模も大きく技術的にも高度だが、常にピアノ・パートが重くなってしまう傾向にある。が、森下、川畑の演奏では戦略的な「黄金の均衡」が実現している。
文:大津 聡
(ぶらあぼ2025年2月号より)
【information】
CD『妖精の距離/森下幸路&川畑陽子』
ベートーヴェン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第9番「クロイツェル」/シューマン:「ミルテの花」より第1曲〈献呈〉/トイヴォ・クーラ:無言歌/グリーグ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番/ドビュッシー:2つのロマンス/武満徹:妖精の距離 他
森下幸路(ヴァイオリン)
川畑陽子(ピアノ)
ナミ・レコード
WWCC-8025 ¥3300(税込)