実は“ウィーン生まれ”じゃない⁉ ウィンナ・ワルツ
ウィンナ・ワルツの特徴は? と聞かれて、音楽に詳しい人なら、まず最初に、そのいびつな3拍子のリズムを挙げるでしょう。「ズン・チャッ・チャッ」と均等でなく、「ズ・チャー・チャッ」と、2拍目が少し前に出て、かつ長い、独特の3拍子。
以前ウィーン・フィルのメンバーに聞いたところ、あのリズムはウィーン周辺に特有のもので、同じオーストリアでも、ウィーンから離れた地域ではなじみがないのだそうです。なので地方出身の奏者たちは、ウィーンで学ぶうちに、この“ウィーンなまり”を体得するのだとか。

作家:Wilhelm Gause
ただ、ウィンナ・ワルツをウィンナ・ワルツたらしめている最大の特徴は、そのリズムよりむしろ、楽曲全体の構成にあると言えます。
典型的なウィンナ・ワルツは、
【序奏 + 複数の小ワルツ + コーダ】
という構成になっています。小ワルツを複数つなげているのが大事なところで、それまでのワルツは、8小節とか16小節とかの短い単調な旋律で、踊るときには、いくつかのワルツを適当に寄せ集めて演奏していました。それを意図をもって組み合わせることで、各ワルツの関連性やコントラストなど、作品としての個性が生まれ、音楽作品としてコンサート会場で聴くのにも耐えうる価値を持つようになったのです。
このひな形を確立したのが父ヨハン・シュトラウス(1804~1849)と、そのライバルのヨーゼフ・ランナー(1801~1843)です。でも、それが彼らの発明だったわけではありません。複数のワルツの組み合わせはシューベルトにもありますし、より重要なのが、カール・マリア・フォン・ウェーバー(1786~1826)が1819年に作曲したピアノ曲「舞踏への勧誘」。「導入と複数のワルツとコーダ」で構成された、音楽史上最初の演奏会用ワルツと言われており、それゆえにウェーバーを「ウィンナ・ワルツの始祖」と呼ぶこともあります。彼はモーツァルトの妻コンスタンツェといとこだったり、彼自身もウィーンで学んだりしたので、ウィーンとまったく無縁ではないものの、ドイツの作曲家。なので、ウィンナ・ワルツの始まりは残念ながらウィーンではなかった、と言えるかもしれません。

(1786~1826)

(1801~1843)
目次
Page 1……トップページ
Page 2……実は“ウィーン生まれ”じゃない⁉ ウィンナ・ワルツ
Page 3……会議も踊った!ウィーンのダンス熱
Page 4……J.シュトラウスⅡ世ってどんな人?――大衆音楽を芸術に高めたカリスマ
Page 5……先代はろくでなし? 骨肉あいはむ父子勝負!
Page 6……わずか18歳、鮮烈なデビュー・コンサートで大成功!
Page 7……世界を魅了した「ワルツ王」――ロシアのヨハン・シュトラウス
Page 8……1939年、ウィーン・フィル ニューイヤーコンサートがスタート
Page 9……著者プロフィール&関連記事