沼尻竜典&神奈川フィルによる音楽が主役の《トスカ》

©Ayane Shindo

 オペラ指揮者としても国内外で豊かな経験を持つ沼尻竜典。 神奈川フィルハーモニー管弦楽団音楽監督に就任した翌年の2023年から年一回行われている“Dramatic Series”は、国内の一流歌手を中心にキャスティングして行う演奏会形式のオペラで、回を重ねるごとに評判を呼んでいる。

「オペラ演奏会形式は、音楽が主体となってその良さを伝える場です。今どきのドイツあたりのオペラ公演では、演出家が欲しいヴィジュアルを優先して、歌手二人をとんでもなく遠くに配置してデュエットを歌わせたり、効果を強調するために叫び声を入れたり、寝転がってアリアを歌えとか(笑)。でも今日本で広がりつつある演奏会形式では、音楽を最優先にできるのです。私は30年前からその普及に努めてきましたが、最近はコロナの影響もあって後押しされた形です。舞台装置はありませんが、オーケストラが舞台上にいるため、楽器もよく見えてオーケストラのファンにも好評です。衣裳や装置を伴う本格的なオペラ上演の魅力を否定するつもりはもちろんないですが、なかなかそのような上演の機会に恵まれない日本の現状では、この形がベストな選択の一つだと私は思っています。チケット代も安くできるので気軽に楽しんでいただけますし」

 ここまで《サロメ》《夕鶴》《ラインの黄金》と取り上げ、楽員みんなが積極的に取り組むことで、神奈川フィルはさらにパワーアップしているという。 そこで次に挑むのは、イタリアオペラの名作《トスカ》だ。

「プッチーニのオペラでは女性が悲劇的な最期を迎えることが多く、今は《蝶々夫人》もジェンダー問題の観点から不適切と言われることもあるほど。でも音楽の美しさは格別です。オペラティックな良さが際立つ作品に取り組むことで、神奈川フィルの表現力向上にも繋がります」

 歌手勢も沼尻イチ推しの顔ぶれが揃う。

「トスカ役の佐藤康子さんはイタリアに長く住んでベルカント唱法を極めていらっしゃる方。スカルピア役には数少ない『悪役のできるバリトン』である上江隼人さんなど、日本のトップ歌手が集います。そしてカヴァラドッシには、世界の一流歌劇場からのオファーが続くテノール、シュテファン・ポップさん。『あとからMETの出演依頼が来ても、神奈川フィルとの予定は死守してね!』と約束してもらいました(笑)。共演する日本人歌手たちにも良い刺激になるでしょう」

 手頃な料金で一流の歌唱を聴けるうれしい機会。 同キャストによる《トスカ》は名フィル、群響でも上演される。

取材・文:高坂はる香

(ぶらあぼ2026年6月号より)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 Dramatic Series 歌劇《トスカ》(セミ・ステージ形式)
2026.6/20(土)17:00 横浜みなとみらいホール
問:神奈川フィル・チケットサービス 045-226-51071
https://www.kanaphil.or.jp

他公演
群馬交響楽団×高崎芸術劇場 GTシンフォニック・コンサート vol.2
2026.6/6(土)高崎芸術劇場(群馬交響楽団事務局 027-322-4944)
名古屋フィルハーモニー交響楽団 第546回 定期演奏会
2026.6/12(金)、6/13(土)愛知県芸術劇場 コンサートホール(名フィル・チケットガイド 052-339-5666)

高坂はる香 Haruka Kosaka

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/