躍動感あふれるアンサンブルとカンタービレを ―― 濱田芳通が語るモンテヴェルディ《オルフェオ》

©hot-vision 成田 宏

 バッハより昔の音楽がどれほどエキサイティングで豊かな世界であることか。1994年の結成以来、濱田芳通が率いてきたアントネッロは、それを長年にわたって生き生きとした形で伝え続けてきたという点で、日本の古楽界の横綱格と言っていいだろう。

 2025年2月にアントネッロは、モンテヴェルディ《オルフェオ》(1607年マントヴァ初演)の新制作上演を兵庫県立芸術文化センター、神奈川県立音楽堂との三者共同制作によりおこなう。ギリシャ神話由来の、急死した新妻をオルフェオが冥界まで取り戻しに行くという物語であり、オペラ史の始まりに位置する初期バロックの大傑作である。

 アントネッロとしては《オルフェオ》自体は3回目の制作にあたる。筆者は前回上演のリハーサルを取材し、熾烈で情熱的な稽古場の状況に圧倒された記憶が残っている。モンテヴェルディへの愛が、もう桁外れにすごいのだ。

 アントネッロのモンテヴェルディ解釈について濱田はこう語る。

 「ほとんどアリアがなく、レチタール・カンタンド(語りのような歌)と合唱曲と器楽曲とでできているオペラですが、語りすぎるような演奏が多いんです。そうじゃなくて、いわゆる“つまらなく歌っているレチタティーヴォ”からは離れたい。イタリア語を熟知している人がバラバラっと巧くしゃべる感じとも違う。音価でいうと、逆にデフォルメしていきたいんです。つまり、長い音符はより長く、短い音符はより短く…。現代のラップに近い感じですね。でも、そうするとレチタール・カンタンドは感情そのものを伝える歌になってくるんです」

 初期バロックならではの器楽の響きにも着目したい。

 「管楽器はバッハの時代になると、機能性を高めるということもあって、音を鳴らなくするんですよ。トラヴェルソもオーボエもリコーダーも、それまで円筒形だったのが、先に行くほど細くなる円錐形になって音が小さくなる。ルネサンス・フルートもモダン・フルートも円筒なのに、後期バロックだけが急に優しい音になる。弦楽器もそうです。ルネサンス・ヴァイオリンとモダン・ヴァイオリンの方が共通点がある。初期バロックの方が野性的で、後期バロックは全体に楽器の響きはおとなしい傾向にあります」

 濱田自身のリコーダーやコルネットの演奏にも表れているように、古い管楽器独特の野性味と瑞々しさは大きな魅力である。そうした楽器たちが集まって、モンテヴェルディのカラフルな響きのゴージャスなオーケストレーションになっていくのだ。一度でも実演で接したら、その感激は忘れられないものになる。

 なお、今回の制作ではアントネッロとしては初めてオーディションによって起用された若い歌手たちが何人か加わる。演出の中村敬一は去る8月のサントリー音楽賞受賞記念コンサートでのヘンデル《リナルド》の際も、美しく親しみやすい舞台が好評だった。古楽ファンのみならず幅広い音楽好きにもきっと楽しめるはずだ。
取材・文:林田直樹
(ぶらあぼ2024年12月号より)

濱田芳通 & アントネッロ
モンテヴェルディ 歌劇《オルフェオ》
プロローグと全5幕/イタリア語上演・日本語字幕付/新制作

2025.2/15(土)、2/16(日)各日14:00
兵庫県立芸術文化センター(中)
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
https://www.gcenter-hyogo.jp
2025.2/22(土)、2/23(日・祝)各日14:00
神奈川県立音楽堂
問:チケットかながわ0570-015-415
https://www.kanagawa-ongakudo.com