懸田貴嗣(チェロ)と渡邊孝(チェンバロ)がコスタンツィの佳品で辿るチェロ歴史の源流

 「一般的にチェロの歴史では、ボッケリーニによって高度な技術が生み出されたと言われていたりするのですが、実はそれ以前にナポリやローマのスクールに特筆すべき演奏家がいるのです」と語る懸田貴嗣。盟友のチェンバリスト渡邊孝と組んで録音したコスタンツィ(1704〜78)のチェロ・ソナタ集は、多様な刺激に満ちており実に面白い。この人こそボッケリーニの師にしてローマにおけるチェロの演奏技法を格段に進歩させた、という事実が実感できる。

 収められた8曲は聴き進むほどに異なる曲想が楽しめるように並べられている。最初の変ロ長調ソナタの冒頭アンダンテでは、穏やかに伸び伸び歌うチェロが印象的。バロックからギャラントな様式への幕開けを告げる心地良い音楽で始まる。「アルバムの冒頭には聴きやすい曲を配置しました。でも、だんだん雲行きが怪しくなって(笑)、3曲目のハ短調と、続くヘ長調になると激しい技巧的な箇所が目立つ内容になります」。

 その言葉通り、弦をまたぐ素早い跳躍の連続やダブルストップ、アルペジオ、高音域に駆け上がるようなフレーズなどの超絶技巧が、意表を突くように随所で披露される。

 共演の渡邊のチェンバロもいつもながら秀逸で、リピート部分や緩徐楽章における右手の装飾の変化と煌めきは格別。5曲目にコスタンツィと同じくローマで活躍したガスパリーニのトッカータがチェンバロ・ソロで演奏され、そのまま同じニ長調の調性で「チェロのためのシンフォニア」の前奏に繋げるあたりは心憎い仕掛けだ。それを含めた後半の3曲は、高度な演奏技法と音楽的内容のバランスが上手くとれた作品を配置。「チェロとチェンバロのみの組み合わせなので、響きに飽きないように、できるだけバラエティに富んだ構成にしたかった」という本CDは、まさにアルバム全体がチェロの縦糸とチェンバロの横糸で紡がれた極上のタペストリーのような美に彩られている。

 今回の録音にあたり、コスタンツィの全17曲のチェロ・ソナタの楽譜を各地の図書館等に眠る手稿譜から捜し集め、現代譜に直して約15年かけて全曲を揃えたという。懸田や渡邊の演奏へのアプローチの特徴は、このように時間をかけて歴史に光を当てる姿勢を大切にしている点だ。このCDのジャケットに使用したのは、コスタンツィが勤務した教会にあるカラヴァッジョの「聖マタイの殉教」。そこに描かれる光の鮮やかさは、まさに二人の作品への愛なのだ。
取材・文:朝岡 聡
(ぶらあぼ2024年11月号より)

CD『コスタンツィ チェロ・ソナタ集』
コジマ録音
ALCD-1225
¥3300(税込)