田崎瑞博(チェロ/古典四重奏団)

“ショスタコーヴィチの時代”と繋がりを持つ最後の世代の奏者として

左より:花崎淳生、田崎瑞博、川原千真、三輪真樹 ©藤本史昭

 古典四重奏団の「ムズカシイはおもしろい!!」は、毎年開催されるレクチャー付きの恒例シリーズ。昨年からはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲15曲に3年がかりで取り組んでいる。いまこの作曲家の作品を演奏する意義を、チェロ奏者の田崎瑞博が語った。

 昨年の第1番〜第5番(公演「その1・2」)に続き、今年は第6番〜第11番(「その3・4」)。この作曲家の中期から後期に差し掛かる6曲について、田崎は「抒情的で柔らかいものを感じさせる曲が多い。それはむしろショスタコーヴィチの重要な部分だと思います。厳しさや苦しさが強調されがちな作曲家ですが、ベートーヴェンと同じで非常に多様性のある人です」と考える。

 公演「その3」は「柔らかく優しい」6番、「凝縮感があり、終わりは寂しく儚い」7番、「彼の四重奏曲としては例外的に物語性が強い」8番。「その4」は演奏順に、「重量感としては軽めで、中間的な色合い」の10番、「晩年5作の1曲目で、短いけれどますます凝縮されている」11番、「構成がシンフォニック。この作曲家のいいところが全部乗っかり、沈んだ感じがない。8番と対照的かつ双璧」という9番。

 古典四重奏団はどんな曲であっても、背景やメッセージ等を音楽に当てはめようとはしない。特に当時の社会情勢や人生経験と絡められがちなショスタコーヴィチには、より注意深く接し、「音楽そのものに入り込む」感覚を重視している。

 「ショスタコーヴィチは、不協和音も変拍子も、自分の欲求の中に整合性が取れる範囲で、それがマッチする感じさえあれば使うし、汚いと思えば使わない。彼がそう判断した思考をたどって、体に入れる感覚です。音名象徴とか背景はもちろん認識しますし、“この音は○○を表している”と決めつける方がある意味簡単ですが、彼の真の思いと同一には絶対になりません。音から彼の思考をたどるのは大変ですが、そこに意味や魅力があるはずです」

 ショスタコーヴィチほどの天才でも、弦楽四重奏曲を書くのはかなり消耗したのではと推測する田崎。その渾身の作品群の演奏については、ある種の重い義務感を意識しているという。

 「ショスタコーヴィチはできるだけ演奏しないといけないと考えています。私たちは彼の時代に少し被っているからです。ソヴィエト連邦がまだ存在し、様々な事件が起こった時代を生きたということは、国は違っても何らかの当事者であるわけで、その連鎖を引き継ぐ最後の世代なんです。当時の社会でわずかでも繋がっていた人間の一人であることは、どこかに自ずと音として出るものと信じています」
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年9月号より)

古典四重奏団 ムズカシイはおもしろい!! ショスタコーヴィチの時代 2024
その3の夜
2024.9/24(火)19:00
その3の昼 9/27(金)14:00
その4の夜 10/25(金)19:00
その4の昼 10/30(水)14:00
ルーテル市ヶ谷ホール
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