ヨス・ファン・フェルトホーフェン合唱団(ヨスコア)は、名門オランダ・バッハ協会を35年の長きにわたり率いてきた古楽界の巨匠ヨス・ファン・フェルトホーフェンを音楽監督に迎え、2022年に日本で誕生した。130名を超える団員は公募により集まったアマチュアが中心。5ヵ年計画で合唱のための大作を1作ずつ取り上げていくという壮大なプロジェクトである。初年度の23年はハイドンの名作オラトリオ「天地創造」、2回目の24年は近年とみに再評価が進んでいるメンデルスゾーンのオラトリオ「エリアス」を演奏。いずれも高い評価を得た。5ヵ年計画の折り返し点に当たる今年は、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」を取り上げる。これまでの3年間でドイツ語作品に対する理解と習熟度を高めてきたヨスコア。「ドイツ・レクイエム」はそのひとつの到達点となる。
ソリストに迎えるのは、第2回公演「エリアス」でもソロを務めたソプラノの中江早希。宗教音楽からオペラ、そして現代音楽まで幅広いレパートリーを持つが、その透明感のある歌声の真価を発揮できるのは、やはり宗教曲や古楽作品だろう。その意味でも今回の登場は期待が大きい。そしてもうひとり、バリトンの加耒徹は、バッハ・コレギウム・ジャパンでの活躍が示す通り、宗教作品に類まれな才能を発揮する歌い手である。加耒の強みは、言語に対する鋭い感覚とディクションの確かさ。「ドイツ・レクイエム」でもそうした特質が大いに発揮されると思われる。
また当日は、ブラームスの前にメンデルスゾーンの「詩篇42番 鹿が清らかな水を求めて鳴くように」の演奏が予定されている。「ドイツ・レクイエム」と同様、マルティン・ルターのドイツ語訳の聖書の詩句がテキストとなっている作品で、ブラームスがひたすら「魂の救い」を求める甘美で重厚な音楽であるのに対して、メンデルスゾーンの方は「神を賛美し希求する」この作曲家らしい純粋で静謐な作品。両作の対比を楽しむことのできるプログラムとなっている。
合唱指導に定評のある山神健志のもと徹底した練習を重ね、昨年12月にはすでに杉並公会堂で、2曲とも暗譜による試演会も行われた。近年進境著しい東京シティ・フィルのバックアップを得て、ヨス・ファン・フェルトホーフェンの古楽的なアプローチによる「ドイツ・レクイエム」がいったいどのようなものになるのか。聴き逃せない演奏会となりそうだ。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2025年2月号より)
ヨス・ファン・フェルトホーフェン合唱団 第3回演奏会
ブラームス「ドイツ・レクイエム」
2025.2/22(土)18:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ヨスコア事務局03-3367-2451
https://www.joschor.com