世界的フルート奏者の工藤重典(1954〜)は2025年、出身地の札幌市でフルートを習い始めてから60年の節目を祝う。自身がプロデュースしてきた東京チェンバー・プレイヤーズの第3回演奏会は「フルートと共に60年」を掲げ、前半に「工藤重典 フルート・オーケストラ」(リーダー:岩佐和弘、山内豊瑞)、後半に「工藤重典 室内合奏団」(コンサートマスター:森下幸路)と2つのアンサンブルが出演する。
「大名曲のお祭りです。フルート・オーケストラは一時盛んでしたが、いったん下火となり、今また規模を拡大して盛り上がっています。アルト・フルート、コントラバス・フルートといった低音楽器もそろえたのでワーグナーのヴィオラ・パートの音の刻み、モーツァルトの低音の動きなどの再現も編曲を通じて可能となり、フルート奏者自身の勉強にもなります」
日本各地のオーケストラで「フルートを常時4〜5人雇っているのはNHK交響楽団くらい。他は正団員が2〜3人程度」で、フルート専攻の音大卒業生にとってオーケストラへ入団するのは「夢のまた夢」という。
「くじ引きみたいな状況は変わっていません。代わりに大小のアンサンブルを自主的に結成するのですが、今回は破格のスケールを通じ、フルート・オーケストラを認知していただく好機と考えています」
プログラムでは、プロコフィエフのバレエ『ロメオとジュリエット』に基づく編曲「2台ピアノと4本のフルートのための幻想曲」の世界初演が目を引く。
「アルトゥール・アンセルの2台ピアノ版が非常に面白いので、ピアニスト&作曲家の内門卓也さんにフルート4本を足した幻想曲への編曲をお願いしました。ピアノは娘の工藤セシリアと友人の千葉皓司さんが担います」
後半はモーツァルトを2曲。弦楽器を交えた室内合奏団を矢崎彦太郎が指揮する。古部賢一、福川伸陽、保崎佑とスター・ソリストを迎えた「フルート、オーボエ、ホルン、ファゴットのための協奏交響曲」、吉野直子が加わっての「フルートとハープのための協奏曲」を工藤が独奏する。
「指揮の矢崎さんは幼なじみ。家族的な雰囲気の中で何でも言い合えるメンバーを集めました。コンサートマスターの森下さんは年齢とともに深みを増し、音楽家の歩むべき道をしっかりと進んでいる方です」
工藤はフランスのリール国立管弦楽団やサイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管弦楽団などで内外数多くのソリストと接してきた。
「腕前で世界トップクラスの日本人奏者は増えましたが、私がヨーロッパに渡った20歳の頃に体験したヴァイオリンのアイザック・スターン、ピアノのアルトゥール・ルービンシュタインのように偉大な人格を伴い、仲間の輪が大きく広がっている巨匠たちにはまだまだ、及びません」
「日本の音楽市場が次第に自国内で完結するアメリカ型に向かい、外国へ出る若手が減っている」現状への危惧も感じつつ、アンサンブル活動を通じた若手育成に心血を注ぐ。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2025年2月号より)
工藤重典プロデュース 東京チェンバー・プレイヤーズ Vol.3 〜フルートと共に60年~
2025.2/17(月)19:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス050-3185-6728
https://www.kajimotomusic.com