阪 哲朗(山形交響楽団 常任指揮者)

人気のさくらんぼコンサートから真夏の第九、そして新しい山響サウンドを求めて

 「山響」の愛称で親しまれ、2022年に創立50周年を迎えた山形交響楽団。「食と温泉の国」山形で地元民に愛され、“ここでしか聴くことのできない響き”を届けるべく多彩な活動を展開している。コロナ禍においても先進的な試みによって強い存在感を示し、音楽を止めることなく響かせ続けてきた同楽団は、2024年も意欲的なラインナップの定期演奏会を行う。今回は常任指揮者の阪哲朗に6月以降の演奏会について尋ねた。

「毎回ご好評をいただいている『さくらんぼコンサート』ですが、今回(6月20日東京公演、21日大阪公演)は、モーツァルトの《魔笛》序曲に『戴冠式ミサ』、ニキシュのファンタジー、そしてブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲というプログラムを組みました。序曲とミサ、序曲と協奏曲…という珍しい組み合わせですが、以前にも一晩の演奏会のプログラムが全曲協奏曲、という演奏会も行っているので、“山響ならでは”のものが作れたと思います」

「戴冠式ミサ」には老田裕子(ソプラノ)、在原泉(アルト)に鏡貴之(テノール)、井上雅人(バリトン)と実力派ソリストが揃い、協奏曲にも辻彩奈(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)と俊英が名を連ねる。卓越した技術と豊かな音色をもつソリストたちとの共演によって、山響サウンドがさらに輝くことだろう。

「私はもともと合唱の指揮が大好きなので、今回『戴冠式ミサ』を振れることがとても楽しみです。また、ヴァイオリンの辻さんはご一緒することが多く、彼女の日本人離れしたフレーズ感と美音をお届けできることも嬉しいですね。チェロの上野さんとは初めての共演ですが、どのような音楽を作ることができるか期待しています」

ソリストはもちろんだが、今回はぜひ合唱にも注目してほしいという。

「大阪公演では、山響アマデウスコアをはじめ、びわ湖ホール声楽アンサンブル、パナソニック合唱団の皆さんも加わってくださり、山形と滋賀、大阪のコラボレーションが実現します。地元を代表する合唱団が共演するというのはなかなかない機会なので、どんな響きが生まれるか、ぜひご注目いただきたいですね」

「7月21日はやまぎん県民ホールでは初めてとなる『第九』を演奏します。山形を世界に届けるための基軸、そしてシンボルのような公演を目指し、アジア各国からソリストをお招きしました。韓国のコ・ヒュナ(ソプラノ)に台湾のワン・ユーシン(メゾソプラノ)、中国からゴン・インジャ(テノール)、そして日本の平野和(バスバリトン)という、私が厚い信頼を置いている歌手たちが揃いました」

 平野は近年目覚ましい活躍を見せている日本のバスバリトンだが、他の出演者についてはどのような魅力があるのだろう。

「皆さん持っていらっしゃる声が素晴らしいのはもちろんですが、様々な舞台を踏んでの経験と表現の多彩さがあります。特に『第九』は声と言葉への感覚が求められるので、今回のソリストをお呼びできたことはとてもうれしいですね。ご一緒するのは久しぶりなので、進化した皆さんの歌唱をお届けできることがいまからとても楽しみです。合唱の山響アマデウスコアとは先日リハーサルをしたばかりですが、ドイツ語の発音が美しく、言葉から音楽をつくっていることがよくわかる演奏です。やまぎん県民ホールの響きのよさもあいまって、『第九』の魅力をより深く味わっていただける公演になると思います」

 今回の「第九」で、2020年にスタートした阪と山響によるベートーヴェンの交響曲全曲演奏会が完結する。世界的に音楽活動をすることが厳しい状況の中で、阪と山響は妥協することなく芸術的対話を深め、より強固な関係を築き上げてきた。その集大成をぜひ聴き届けてほしい。

 そして9月7日、8日には“トランペット界のパガニーニ”とも評されるセルゲイ・ナカリャコフを迎えての第319回定期演奏会が行われる。

「山響はこれまで、第一線で活躍するアーティストと共演することで成長してきましたが、これまでトランペットの名手と共演する機会がありませんでした。今回は幸いにも最高の奏者をお招きすることができました。アルチュニアンのトランペット協奏曲は、技術はもちろん、旋律の美しさも魅力的な楽曲で、彼の音楽性を存分に味わっていただけると思います」

 さらに山本菜摘による委嘱新作やチャイコフスキーの傑作、交響曲第6番「悲愴」も演奏される。

「山響委嘱新作の世界初演は、2022年から定期的に行っているものです。若い日本の作曲家を応援するという目的とともに、オーケストラ、そしてお客様が新しい作品に触れる機会を増やしていきたいという想いが込められています。チャイコフスキーの『悲愴』は、いまの山響がやるべき楽曲だと判断しました。10型の編成で演奏する機会がそう多くないこともあり、今回この曲を演奏することでこれまでになかった視点や音色の広がりなど、新しい山響サウンドを作り出していくことができるはずです」

 あくなき探求心と多くの人々に音楽を届けたいという強い想いから、革新的な試みやプログラムが生まれ進化し続ける阪と山響。今回の演奏会はそれを体感するまたとない機会となることだろう。
取材・文:長井進之介

さくらんぼコンサート2024 東京公演
2024.6/20(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール


出演
指揮:阪 哲朗
ヴァイオリン:辻 彩奈
チェロ:上野 通明
ソプラノ:老田 裕子
アルト:在原 泉
テノール:鏡 貴之
バリトン:井上 雅人
管弦楽:山形交響楽団
合唱:山響アマデウスコア
曲目
モーツァルト:歌劇 「魔笛」K.620 序曲
モーツァルト:ミサ曲 ハ長調「戴冠式ミサ」K.317
ニキシュ:ファンタジー(オペラ 「ゼッキンゲンのトランペット吹き」 のモチーフによる)
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102

さくらんぼコンサート2024 大阪公演
2024.6/21(金)19:00 ザ・シンフォニーホール


出演
指揮:阪 哲朗
ヴァイオリン:辻 彩奈
チェロ:上野 通明
ソプラノ:老田 裕子
アルト:在原 泉
テノール:鏡 貴之
バリトン:井上 雅人
管弦楽:山形交響楽団
合唱:山響アマデウスコア、びわ湖ホール声楽アンサンブル、パナソニック合唱団
曲目
モーツァルト:歌劇 「魔笛」K.620 序曲
モーツァルト:ミサ曲 ハ長調「戴冠式ミサ」K.317
ニキシュ:ファンタジー(オペラ 「ゼッキンゲンのトランペット吹き」 のモチーフによる)
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102

山形交響楽団特別演奏会
やまぎん県民ホールシリーズ2024 Vol.2
阪&山響 ベートーヴェン交響曲全曲演奏完結!やまぎん県民ホール初の「第九」

2024.7/21(日)15:00 やまぎん県民ホール


出演
指揮:阪 哲朗
ソプラノ:コ・ヒュナ Hyuna Ko〈韓国〉
メゾ・ソプラノ:ワン・ユーシン Yu-hsin Wang〈台湾〉
テノール:ゴン・インジャ Yinjia Gong〈中国〉
バス・バリトン:平野 和 Yasushi Hirano〈日本〉
管弦楽:山形交響楽団
合唱:山響アマデウスコア
曲目
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調「合唱付き」作品125

第319回 定期演奏会
2024.9/7(土)19:00、9/8(日)15:00 山形テルサホール

出演
指揮:阪 哲朗
トランペット:セルゲイ・ナカリャコフ
管弦楽:山形交響楽団
曲目
山本 菜摘:山響委嘱新作〈世界初演〉
アルチュニアン:トランペット協奏曲
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調「悲愴」作品74

問:山響チケットサービス023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp