溌剌とした巨匠が魅せる瑞々しいロマン派名曲
敏腕奏者たちがハイレベルの演奏を展開してきた紀尾井ホール室内管弦楽団が、最近生気を増している。それは2022年4月に就任した首席指揮者トレヴァー・ピノックに拠るところ大であろう。彼は、ピリオド楽器オーケストラ「イングリッシュ・コンサート」におけるバロックや古典派の作品で、生気と躍動感漲る音楽を聴かせていたが、そうした美点はその後のモダン・オーケストラ、そして紀尾井ホール室内管、さらには同楽団におけるロマン派作品でも発揮されている。生命力に溢れ、しかも円熟とともにコクや味わいを加えた音楽作りは、75歳を超えた今も健在。いや、いっそう溌剌としてきたようにすら感じられる。
6月の紀尾井ホール室内管定期は、そのピノックの今シーズン初登場。やはり初期を軸にしたロマン派の名曲が披露される。演目のウェーバー《オイリアンテ》序曲、シューマンの交響曲第1番「春」は、ともに颯爽として躍動感溢れる作品。ピノックの音楽性にジャスト・フィットするし、日本初披露となるシューマンの表現も極めて興味深い。また、ロンドン・フィルやバイエルン放送響等と共演し、公式な日本デビューを果たす1990年ラトヴィア生まれの名花クリスティーネ・バラナスのヴァイオリンも要注目。彼女がソロを弾くドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲は、民俗的で生きの良い“隠れた名曲”。明確な音とフレージングで芳醇なソロを奏でる彼女なら、ピノックの清新なアプローチを味方に、曲の真価を明示してくれるに違いない。
ここは、華やかで瑞々しさに溢れたオーケストラ音楽を、存分に満喫したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年5月号より)
2024.6/21(金)19:00、6/22(土)14:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp