ルネ・マルタン(ラ・フォル・ジュルネ アーティスティック・ディレクター)

「ホールEキオスク」が5年ぶりの復活、GWの風物詩が今年もやって来る!

©Marc Roger

 「とても感動しています。創設した時には、まさかこれほど続くと思っていませんでしたから……」

 こう率直に語るのはラ・フォル・ジュルネのアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタン。1995年に生まれたこの音楽祭は彼の故郷ナント(フランス)で今年、初開催から30年を迎えたのだ。当地ではコロナ禍でも規模を縮小して開催。縛りが最も厳しかった2021年でも、のべ3万人が集まったという。今年24年は前売りの段階でチケット全14万5000枚のうち、12万枚を売り上げており、完全復活を果たしたといっていい。

 昨年、コロナ禍を経て4年ぶりに再開した東京も今年で20年。久々にこの音楽祭の象徴ともいえるホールEのキオスクステージが復活するのが今回の目玉のひとつだ! このステージでの公演は、有料公演やマスタークラスのチケット1枚(または半券)があれば3日間にわたり、多彩なアーティストによる生演奏がこれでもかと楽しめるのである。

 「キオスクはラ・フォル・ジュルネにとって鍵となっているポイントです。通過地点であると同時に集まれる場所でもあるというのがとても重要で、普通のコンサートでは同じ好みをもった人たちが集まりますが、キオスクではそうでない人々とも同じ音楽を共有できるのです」

 個性豊かなプログラミングが話題を呼ぶが、今年のテーマは「ORIGINES(オリジン)—すべてはここからはじまった」という切り口で、バロック時代以前の中世やルネサンスの民衆が聴いていたかもしれない音楽も数多くラインナップされている。

 「ちょっと前までクラシック音楽といえば、まずは楽譜があって、その通りに演奏するのが当たり前でした。でも近年は、楽譜をそのまま演奏するのではなく、一旦自分を通してから自在に表現できるアーティストが増えてきました。考えてみてください。かつてはバッハがヴィヴァルディの作品を自分流にアレンジしていましたし、バロック時代は通奏低音をもとに即興することも多かったはず。そういう時代が戻りつつあるのかもしれませんね」

 具体的には、中世の吟遊詩人によるラブソングを歌うアンサンブル・オブシディエンヌ、世界各地に残された古い歌にもとづき多様性と異文化交流を推し進めるカンティクム・ノーヴム(日本の伝統楽器との共演も!)、40ヵ国語以上の言語を歌いこなし、音楽のプリミティブな側面を体感できるレ・イティネラント(女声アカペラ三重唱)らが該当するだろう。他にもサクソフォンのエリプソス四重奏団は、メンバーのひとりが自分たちの個性を活かした編曲を行っている。

 「自分が普段聴かない音楽や楽器に触れることで、これまで繰り返し聴いてきたはずの有名曲もまったく違って聴こえてきます。今回は、そうした起源(ORIGINES)や影響関係を意識してもらえるように様々な時代から重要な作品を選びました。だから私自身としては、果敢に攻めたテーマだと思っているのです」

 73歳になってもアグレッシブな姿勢を崩さないのがルネ・マルタン流なのだ。

 「そもそも音楽は、勇敢で大胆である必要があると思いませんか? 好奇心旺盛なお客様にとっては新しい音楽への扉が開かれ、未知なる旅に誘われるきっかけとなるはずですよ」
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2024年4月号より)

2024.5/3(金・祝)、5/4(土・祝)、5/5(日・祝)
東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町、東京駅、京橋、銀座、八重洲、日比谷
問:ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024 運営委員会事務局 lfjtokyo2024@kajimotomusic.com
https://www.lfj.jp
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。