INTERVIEW オメル・メイール・ヴェルバー(指揮)

小澤征爾の代役を務めた俊英、ウィーン響との来日迫る!

(c)Lukas Beck

 ベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを経験したのち、ドレスデン国立歌劇場の首席客演指揮者に就任、現在はウィーン・フォルクスオーパー、パレルモ・マッシモ劇場の音楽監督を務めるイスラエルの指揮者 オメル・メイール・ヴェルバーがウィーン響とともに来日する。2025年秋からハンブルク州立歌劇場の音楽総監督に就任することも発表されている、今世界が注目する指揮者のひとり。かつて小澤征爾の代役としてサイトウ・キネン・フェスティバルに出演した時のエピソードなども含め、今回の公演の聴きどころを語っていただきました。

取材・文:平野玲音(オーストリア在住/チェリスト・文筆家)

Q. 大変幅広いレパートリーをお持ちですが、3月の日本公演でも演奏なさるベートーヴェンは、マエストロにとってどのような存在ですか?

ベートーヴェンはどの音楽家にとっても重要な存在ですが、どう重要なのかの意味合いは、毎年、毎週変わってきます。それはどの作曲家にも言えることかというと、決してそうではありません。ベートーヴェンは、人生のどの年代においても大きな意味を持ち続けます。とりわけ彼の交響曲は、有名なのに何度演奏しても難しくて複雑で、オートマティックにはいかない。たとえて言えば「旅」のようです。

Q. 指揮者であるだけでなく、作曲家でもいらっしゃいます。このことは、指揮にどんな影響を与えていますか?

ここ数年、作曲はしていないのですが、小説などを2冊書き、約半年後には別の著書も出版されます。これはいわば、私のもう一つの世界です。作曲と指揮との関係も、もちろん密接。私は作曲家でもあるために、総譜に「作曲者を超えるもの」を読み取れるかもしれません。つまり常に総譜に、内的なメカニズムやテクスチュアを探しているのです。作曲家が何を考え、何をしたかったのかは重要ではありません。重要なのは私が何をしたくて探しているか、昨日でも明日でもない今日、何を美しいと感じるか。非常に衝動的な事柄なのです。

Q. これまで何度か演奏を聴かせていただいて、舞台でいわば「即興」をなさっているかのような印象を受けておりました。

私は、コンサートで自由になれるように、事前にいろいろ試しています。リハーサルで明確なアイディアを示しすぎると、コンサートで新たなものが来た時に、動く余地がありません。ある時は遅く、あるいは速く、短く、長く……とリハーサルしておけば、オーケストラは「本番で何かが起こりうる」と待ち構えていてくれます。

(c)Lukas Beck

Q. どのように振っても、反応してくれるわけですね。ところで、ウィーンの街はお好きですか?

もちろんです。ウィーンは今も「音楽の都」であって、ベートーヴェンに関して言えば、街のどの通りを歩いても、彼の家に出くわすようなもの。ベートーヴェンは頻繁に引っ越したため、ウィーンには48もの彼の住居があったのです!私の家がある区では、シュテファン・ツヴァイクが生まれましたし、シューベルトの街でもありますし……これはウィーンだけの特色でしょう。ドイツ風とイタリア風がミックスされた雰囲気も、すばらしいと思います。ウィーンの人々は、ユーモアに満ちており、物事を真面目に深く考えすぎない。

Q. ウィーン交響楽団との関係は?

もう5、6年になるでしょうか、ウィーンでもツアーでも、定期的に何度も共演しています。トップ・レべルであると同時に、軽やかさや柔軟性に満ちています。ウィーン交響楽団は、柔軟性や衝動性を理解していて、「毎晩違う」演奏を楽しんですらいるので、音楽作りが非常にうまくいくのです。

Q. 2024年がどんな年になることを望みますか?

イスラエル人としましては、今大きな問題が起き、パレスチナとイスラエル両方の側にリーダーシップが欠けているため、適切な人々が解決策を見つけることが切なる願いです。イスラエルとパレスチナの両方に、あまりに多くの友がいますので……。
それ以外では、日本ツアーや、初めて指揮する《トリスタンとイゾルデ》など多くのプロジェクト。約1年半後にはハンブルク州立歌劇場の音楽総監督の仕事が始まる、その準備も楽しみです。

Q. 日本には、何回いらしたことがあるのですか?

スカラ座ツアーと、サイトウ・キネン・フェスティバル松本での《サロメ》の2回です。《サロメ》の折には、当時体調がすぐれなかった小澤征爾さんがバレンボイムに「誰か若くて興味深い指揮者はいないか」と電話をかけて、バレンボイムが「私のアシスタントがすばらしいから呼ぶといいよ!」と私を推薦してくださいました。それ以外にも、ツーリストとして何度か訪れています。

Q. わざわざ観光目的で?日本人として、それは大変光栄です。

仕事で行った時には、たとえば京都は見られませんでしたので。日本には多くの知人がいますし、日本の文化はすばらしい。私の家には日本のアートがたくさんありますよ。自然と深くかかわる思想、木で作られた芸術品――そうしたものが大好きなのです。日本の映画もたくさん見ますし、盆栽も好き。ある盆栽アーティストをインスタグラムでフォローしているほどですが、その作品は、伝統的でありながら驚くほどにモダンです。そうしたところに、音楽家として通じるものを感じます。
(平野注:この後も、心打たれた日本映画の情報などをスマートフォンで一生懸命探してくださいました)

Q. 日本ツアーを楽しみにしていらっしゃる、お客様へのメッセージをお願いします。

とても衝動的で、自由に満ちたツアーになるはず。もし2、3のコンサートをお聴きになったら、同じプログラムであったとしても、毎回異なる経験をなさるでしょう。ウィーン交響楽団は、他のオーケストラには無い特殊な響きやキャラクターを持っています。そのウィーンならではの響きや即興性は、ベートーヴェンだけでなく、ブラームスにもよく合いますね。100人で「衝動的」に演奏するのは簡単ではないのですが、こんなに大きなグループに、新たな空気や性質などが見えてくるのは格別です。「この晩だけに聴けるもの」、何かとても生き生きしたものを、お届けできれば幸いです。

オメル・メイール・ヴェルバー指揮 ウィーン交響楽団
2024.3/13(水)、3/14(木)19:00 サントリーホール


出演
オメル・メイール・ヴェルバー(指揮)
河村尚子 (ピアノ)※3/13(水)出演

プログラム
3/13(水)
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68
3/14(木)
ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 Op.93
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op.92

問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
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