小川典子(ピアノ)

創作の最前線にサクソフォンとともに迫る

©Patrick Allen operaomnia.co.uk

 ミューザ川崎の名物企画の一つに、ホールアドバイザーであるピアニストの小川典子が独自の視点でプロデュースする年一回のコンサートがある。2月に開催される「孤独と情熱」と題された本企画では、小川が高く評価している英国出身の孤高の作曲家、ジョゼフ・フィブス(1974年生まれ)を招聘し、ラヴェルやシューマンの作品と組み合わせながら彼の創作の世界に光を当てる。長年、英国と日本を行き来しながら活動している小川にとって、「英国で信頼し合える音楽家たちがいることをみなさんにご紹介できるのが嬉しい」と話す。小川のために作曲された新作「ソナチネ」の世界初演も、大きな注目点だ。

 フィブスとは共通の知人を通して知り合い、小川が主催する「ジェイミーのコンサート」のためにピアノの小品「NORIKOのためのセレナータ」を作曲してもらったのが二人の友情の始まりだったという。その後、フィブスはサクソフォン奏者のヒュー・ウィギンと小川のために「Night Paths」を作曲。これは去る10月にロンドンのウィグモア・ホールで開かれたフィブスの個展でも演奏され、大喝采を浴びた。同曲はまだ初演者ウィギンに独占権があるのだが、今回は特別に許可を得て、名手、須川展也が小川と日本初演を行う。

 彼の音楽については、「曲の雰囲気は、夜とか孤独を思わせるものが多く、ひじょうに心に訴える系の音楽」と小川は語る。

 「難解でもなく、ミニマリズムでもなく、かといって超現代音楽でもないのだけれど、奏者としてはつねに頭の中で拍子を数えていなければならなくて、しかもそれを表には出せない、といったタイプの音楽と言ったらよいでしょうか。彼自身、とても繊細で、どこか寂しい感じをいつも漂わせている感じがします。自分の曲のことは雄弁に話すけれど、ふだんは控えめな人柄ですね」

 フィブスの作品は日本ではあまり紹介されていないが、独奏曲からオーケストラ曲まで多彩な作品を書いており、筆者も2012年にサロネン指揮フィルハーモニア管によって初演された「Rivers to the Sea」をロンドンで聴き、精緻な響きのなかに秘めたエネルギーと情熱を感じたことを思い出す。来日は、03年に世田谷パブリックシアターでジョナサン・ケント演出の芝居『ハムレット』の劇音楽を担当して以来なのだそうだ。

 最後に、これまで数々の新作の初演を行ってきた小川に、現代において曲を委嘱することをどうとらえているのか訊ねてみた。

 「かつて武満徹先生が私に、『作曲家のツリー(tree)というのがあってね、僕はその木の一部になりたいんだよ』とおっしゃったことがあって、あの言葉は忘れられません。どうしても現代音楽というと、バッハやベートーヴェンのいるツリーとは別枠だと思われがちですが、そうではなくて、そのあいだがもっと近くなってほしい。武満先生はそのツリーの葉っぱの一枚になったと思いますけれど、今の作曲家たちもそうなってほしい、と心から願っています」

 関連企画として、フィブスと作曲家の菅野由弘を迎えてのトーク&レクチャー(2/21)もあり、創作をめぐる作曲家たちの生の声に触れる貴重な機会となるだろう。
取材・文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2024年1月号より)

ホールアドバイザー小川典子企画 孤独と情熱
2024.2/23(金・祝)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp