日本オペラ振興会 2024/25シーズンラインナップを発表〜藤原歌劇団創立90周年の記念事業も実施

 公益財団法人日本オペラ振興会(藤原歌劇団、日本オペラ協会)が12月13日に都内で会見を開き、2024/25シーズンのラインナップを発表した。会見には、渡辺佳英(日本オペラ振興会理事長)、折江忠道(藤原歌劇団総監督)、郡愛子(日本オペラ協会総監督)に、出演歌手を代表して砂川涼子(ソプラノ)と上江隼人(バリトン)が登壇した。

左より:相樂和子、砂川涼子、郡愛子、渡辺佳英、折江忠道、上江隼人

 新シーズンは両団体あわせて4演目を上演。今年度に創立65周年を迎えた日本オペラ協会に続き、2024年度はイタリア・オペラを主軸とする藤原歌劇団が創立90周年の節目を迎える。その記念事業として、「藤原歌劇団創立90周年を祝す特別イベント」が、旗揚げ公演(1934年6月7日)の前日にあたる6月6日に、初代総監督でテノール歌手の藤原義江(1898〜1976)が生前、一時住まいとして利用していた帝国ホテルにて開催される。また、次世代にオペラ文化を残すべく「日本のオペラ文化を皆様と共に未来へ(仮)」と銘打ち、運営基盤の強化のために初のクラウドファンディングを実施することもあわせて発表された。

2024/25シーズン公演ラインナップ

藤原歌劇団
●創立90周年記念公演 ロッシーニ《ラ・チェネレントラ》
2024.4/27(土)、4/28日(日) テアトロ・ジーリオ・ショウワ
指揮:鈴木恵里奈、演出:フランチェスコ・ベッロット
出演:但馬由香、山下裕賀(以上アンジェリーナ) 他
●創立90周年記念公演・NISSAY OPERA 2024
ドニゼッティ《ピーア・デ・トロメイ》ニュープロダクション
2024.11/22(金)、11/23(土・祝)、11/24(日) 日生劇場
指揮:飯森範親、演出:マルコ・ガンディーニ
出演:伊藤晴、迫田美帆(以上ピーア)、井出壮志朗、森口賢二(以上ネッロ)他
●創立90周年記念公演 ヴェルディ《ファルスタッフ》ニュープロダクション
2025.2/1(土)、2/2(日) 東京上野
2025.2/8(土) 愛知県芸術劇場 大ホール
指揮:時任康文、演出:岩田達宗
出演:上江隼人、押川浩士(以上ファルスタッフ)他

日本オペラ協会
●日本オペラシリーズNo.87
なかにし礼 作・台本 / 三木稔作曲《静と義経》ニュープロダクション

2025.3/8(土)、3/9(日) 東京上野
指揮:田中祐子、演出:三浦安浩
出演:砂川涼子、相樂和子(以上 静)、澤﨑一了、海道弘昭(以上 義経)他

藤原歌劇団創立90周年事業
●藤原歌劇団創立90周年を祝す特別イベント
2024.6/6(木)帝国ホテル
クラウドファンディング「藤原歌劇団創立90周年|日本のオペラ文化を皆様と共に未来へ(仮)」
実施期間:2024.1/27(土)〜4/5(金)(予定)

 注目の藤原歌劇団のラインナップ3演目について、折江より聴きどころが説明された。実力派と注目の新人が配されたキャスティングも魅力的だ。

 開幕公演の《ラ・チェネレントラ》は、2018年初演時に好評を博したプロダクションの再演。「イタリアの軽快な雰囲気を全面に出して、世情が暗いなかで楽しく観ていただく」ことがねらいだという。主役のアンジェリーナは、高音から低音まで音域が広く、長大なアリアもある、メゾソプラノにとっては難役。今回は、前回も歌った但馬由香に、「日本音楽コンクールで第1位となり、頭角をあらわすメゾソプラノ」と折江が期待を寄せる山下裕賀が藤原デビューを飾る。

折江忠道・藤原歌劇団総監督

 続く《ピーア・デ・トロメイ》は、ダンテの「神曲」にも登場する、実在した悲劇の女性・ピーアの逸話を元にしたオペラ。指揮は初共演となる飯森範親。2007年の日本初演(昭和音楽大学オペラ公演)でも演出を手掛けたマルコ・ガンディーニによる、舞台装置を一新したニュープロダクション。折江は「ヴェルディに近い音楽性で面白い作品。なかなか上演されない演目にあえて挑戦したい」と上演の意図を語った。

 シーズン3本目は「グランド・オペラを念頭に」と、ヴェルディの《ファウスト》新制作。創立80周年時以来、約10年ぶりのラインナップとなる。「アンサンブルの音楽作りが見事な」時任康文の指揮に、「見た目と動きの美的センスが非常に優れている」岩田達宗による演出だ。
 タイトルロールを歌う上江隼人は公演に向けて自身の思い出とあわせて次のように述べた。

上江隼人

「ファルスタッフを初めて歌ったのは17年前、大学院修了後の助演という形で大学オペラに参加した時でした。その後イタリアに留学し、以前よりほしかったヴェルディの像を買い求めて、それを片手に彼の生地を巡りました。今回お声がかかったときにその懐かし思い出が浮かんだと同時に、ヴェルディ本人も気に入っていたというファルスタッフ役を、90周年の節目で歌わせていただき大変光栄です」

 日本オペラ協会公演は、なかにし礼台本 、三木稔作曲《静と義経》(新制作)を上演する。総監督の郡は「世界的にも自国語のオペラ上演が見直されているようで、日本でも盛り上がってきている」とし、2023年は《源氏物語》《夕鶴》、そして24年2月に倉本聰原作《ニングル》新制作を控えている日本オペラ協会とってもその気運を感じていると話す。

郡愛子・日本オペラ協会総監督

 《静と義経》は、1993年の鎌倉芸術館での初演時に「磯の禅師」を演じていた郡にとって、「日本オペラの“古典”として残していきたいと強く感じる三木さんの最高傑作」で、「なかにしさんがそれぞれの役の個性を生かした言葉をつけてくださり、一人ひとりが生き生きとしてみえる作品」と魅力を語る。日本オペラ協会では2019年以来6年ぶりの上演となるが、今回は三浦安浩演出による新制作。静役には、藤原が誇るプリマドンナ砂川涼子と、「日本語の扱いが素晴らしく、今後の日本オペラ協会を背負っていく」と郡が期待する相樂和子が演じる。

砂川涼子

 静役の砂川涼子は、「コロナ禍に神奈川フィルさんと能の方とのコラボで、YouTubeによる生配信をしたのですが、全曲は初挑戦。静という役は非常に音域が広くドラマティックで、清楚かつ凛とした強い部分が美しく描かれています。日本語に限らずどの言語でもそうなのですが、しっかり言葉が『語れる』歌手を目指して準備していきたいです」と意気込みを述べた。

 2023年、24年は両団体にとって節目の年となる。この先のオペラ文化の発展を見据えた活動が期待される新シーズンとなりそうだ。

日本オペラ振興会
https://www.jof.or.jp