びわ湖ホール オペラへの招待 オッフェンバック作曲 《天国と地獄》

盤石の布陣でおくる神々のドタバタ・コメディで笑い納めを!

 びわ湖ホールで年末に歌劇《天国と地獄》が上演される。「オペラへの招待」シリーズの一環で、初心者からオペラ通まで、子どもも大人も幅広く、安価で手軽に楽しめる好企画である。上演前にはオペラの内容がわかるお話もある。

 オッフェンバックの《天国と地獄》は、軽い内容の喜歌劇(オペレッタ)であり、「地獄のオルフェ」の原題で1858年にパリで初演された。当時リバイバルで当たっていたグルックの《オルフェオとエウリディーチェ》をパロディ化し、人間の愛欲や権力の腐敗を風刺して、抱腹絶倒の喜劇に仕立て上げ、大ヒットした。

 もともと新婚の純愛カップルだった主人公オルフェとユリディスは、もはや倦怠期でダブル不倫して喧嘩が絶えない。ユリディスの恋人で羊飼いのアリステは、実は冥界の神プルトンであり、ユリディスを毒蛇で殺して地獄に連れて行く。神々の王ジュピターは、横暴で他の神々から人気がなく(糾弾されたりもする)、権威もなく、道徳の代弁者「世論」(今回は「字幕」となっている)をいつも気にしている小心者である。オルフェは妻が死んだと大喜びだが、「字幕」に説得されて、ジュピターのもとへユリディスの助命嘆願に行く。ジュピターは、「字幕」と一緒に来たオルフェを邪険にできず、神々を連れて、地獄に実地調査へ。そこで幽閉されたユリディスに会うためハエに変身してゆき、一目ぼれしてしまう。さてその顛末は如何に。

 「天国と地獄」といえば、運動会の定番BGMで誰もが知っている曲だ。元々このオペレッタの地獄の大宴会のドンチャン騒ぎの音楽であり、「カンカン」とか「ギャロップ」と呼ばれ、序曲にも使われている。

びわ湖ホール声楽アンサンブル

 今回の指揮を執るのは、びわ湖ホール声楽アンサンブル指揮者の大川修司。キャストはびわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーが務める。大川は「声楽アンサンブルは4月から新メンバーが6人加わっており、とても新鮮な舞台になると思います。専属メンバーに加え、OB・OGである声楽アンサンブル・ソロ登録メンバーが脇を固めてくれるので、頼もしい限りです。専属メンバーとベテラン、お互いが刺激となり、楽しい舞台となることでしょう」と、意気込みを語る。合唱は一般公募して、特別合唱団を作る。オーケストラは、オペラ経験の豊富な大阪交響楽団で、こちらも盤石だ。今回は字幕付日本語上演で、優れたオペラ訳詞を数多く手がけているバリトン歌手・宮本益光の訳詞で歌う。

 演出は岩田達宗。これまで多くのオペラ演出で、多面的な視点や豊富なアイディアをみせてくれた。プッチーニ三部作やプーランク《カルメル会修道女の対話》が強く印象に残っている。今回は台本を新たに作っていて、破天荒で刺激的な喜歌劇の舞台が大いに期待できる。

 年末のひと時を《天国と地獄》で、神々や人々の愛憎劇や鋭い社会風刺で毒気にあてられながら、現代社会の問題に憂慮しながらも、大笑いして楽しみたい。大川修司の指揮、岩田達宗の演出、びわ湖ホール声楽アンサンブルのキャスト、大阪交響楽団、そしてびわ湖ホールの優秀なスタッフたち、彼らなら必ずやそれを実現してくれることだろう。
文:横原千史
(ぶらあぼ2023年11月号より)

2023.12/21(木)、12/22(金)、12/23(土)、12/24(日)
各日14:00 びわ湖ホール 中ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 
https://www.biwako-hall.or.jp/