ショパン国際ピリオド楽器コンクール ファイナリストの言葉 その2

2023年秋 高坂はる香のワルシャワ日記6

取材・文:高坂はる香

 第2位のピオトル・パヴラックさん、そして第1位のエリック・グオさんのインタビューです。

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 第2位となった地元ポーランドのピオトル・パヴラックさんは、現在グダンスク(グダニスク)で学ぶ25歳。ピリオド楽器の経験はこれまでなかったといいますが、モダンピアノのほかに即興やオルガン演奏を学んでいるとのこと。演奏中のシリアスな表情とは一味違って、普段はやわらかい雰囲気の青年です。

—— 第2位という結果をうけて、今のご気分は?

 このコンクールには、おもしろい挑戦になるだろうというくらいの気持ちで応募していたので、2位をいただけて本当にうれしいです! 第2ステージに進み、さらにはファイナルで演奏できることになって、ポーランドのすばらしい古楽器オーケストラと共演するという僕の夢が一つ実現しました。最高の思い出です。

—— 現在暮らすグダンスクでは、ピリオド楽器を練習できる場所があまりないとおっしゃっていましたね。

 はい、ワルシャワにはショパン研究所のすばらしい楽器があり、とくにコンクール中は練習に全く困りませんでしたが、普段はここにいませんから少し大変でした。時々ワルシャワで練習できるよう予定をアレンジしていましたが、演奏活動もあってコンクール前にはなかなか来られず、モダンピアノで練習するしかありませんでした。ただ今回こういう結果をいただけたのだから、練習は間に合っていたということですよね、安心しました!

—— ピリオド楽器の演奏スタイル、例えばプレリューディングや装飾音の付け方のようなものはどうやって学んだのですか? 

 それについては、実はちゃんと勉強したわけではありません。でも、即興演奏は子どもの頃からずっとやっていました。即興って音楽表現における最も自然な方法ですよね。それからだんだん作品を解釈するという勉強をするようになりました。
 今回は、ピリオド楽器の演奏では即興が自然なことだと知り、ただ、それがどうあるべきなのかということを正式に勉強したことはないけれど、僕なりに、その場に適切だと感じる音楽を見出して弾いてみることにしました。
 例えばモーツァルトも、しばらく作品を聴いていれば、スタイルに沿った装飾をどうつけるべきかがわかってきます。僕は音楽家としての基本的な教育を受けていますから。今回のプレリューディングの即興や装飾は、その感覚に基づいて自分で考えていきました。

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 第1位のエリック・グオさん。中国系カナダ人の彼は、お母様が語るところによると、子どもの頃はかなりの“暴れん坊”で、「しょっちゅう学校から呼び出されていた」らしい。
 そんなエリック少年のあふれんばかりのエネルギーを消費させるべく、さまざまな習い事に挑戦させたうちの一つが、ピアノだったそう。そして真剣にピアノを勉強するようになってから、感情がそれに注がれることで、だいぶ落ち着くようになったらしいです。
 「才能のある子だから、彼の意志を尊重してあげるように」と言われ続け、半信半疑で従った結果、今こうしてピアニストとして評価されてよかった、というお母様の言葉が忘れられません。

—— ファイナルでは、ピリオド楽器ならではの美しい音を聴ける場面がいくつもありました。どのようにして楽器に慣れていったのですか?

 僕にはあまりピリオド楽器の経験がありません。コンテスタントの中には長年勉強してきた方もいると思いますが、僕は最も経験が浅いと思います。ただ、コンクールが始まったら毎日練習する場所を用意してもらえて、すばらしい楽器を弾くことができたので、ショパン研究所にとても感謝しています。しかも弾いていてモダンピアノとそんなに大きな違いがあるようには感じられず、とても早く慣れることができたと自分でも感じています。

—— ピリオド楽器の演奏のスタイルはどのように勉強したのでしょうか?

 装飾音などについては、たくさんやりすぎないように、気づかれるか気づかれないか程度のものを少しつけるようにしていました。とはいえ、ショパン自身が多くの装飾を加え、即興していたことは知っていますから、今後、少しずつ自然と増やしていけるようになりたいです。

—— モダン楽器のショパンコンクールにも出場されていますから、今後はもちろんモダンピアノも演奏をしていくのですよね?

 そうですね、モダンピアノとピリオド楽器の両方がエッセンシャルな存在になると思います。

—— ショパンはあなたにとってどんな存在ですか? このコンクールを経てますます近づきましたか?

 そう思います。今はほとんど家族とか良い友だちのような感覚で、とても良い関係になりました。つながっているというか。ワルシャワはショパンのホームですから。

—— ピリオド楽器をうまくコントロールする秘訣はなんでしょうか? あなたの演奏姿は一見モダンピアノを弾いている時のように見えますが、ちゃんとフォルテピアノの音の魅力を引き出しています。

 そう言ってもらえて安心します…でも自分ではわからないですね。
 意識していたこととして一つ言えるのは、イマジネーションです。できるだけ多くの色が表現できるよう、モダンピアノで演奏している時の音色を想像していました。ピリオド楽器には、それをとてもクリアに再現する能力があります。特にプレイエルは、たくさんのレイヤーや色を創造できると感じました。
 もちろんメカニックやタッチは全く違うのですが、楽器としてはモダン楽器と大きく変わらず、純粋に、ピアノはピアノだとも感じました。それに、時にはモダンピアノよりも心地よく感じ、より好みの反応が得られました。

—— ご自分の音を聴く能力にも長けているのでしょうね。

 そうですかね…遠くで聴こえている音は常に想像しています。自分を半分に分割して、一人を向こうにやる感覚です(笑)。

—— ところで、ピアノ以外でお好きなことは?

 読書は好きで、今回もショパンに関係する本を読みました。エーゲルディンゲルの書籍(『弟子から見たショパン』)はとても良い資料で、ピアニストのためのバイブルのようなものだと思います。でも、その他にもいろいろなことをしますよ。ハイキングも好きで、自然から受ける刺激はとても大きなものです。

—— 演奏の姿を見ていると、フィジカルが強そうですよね。

 確かに、子どもの頃から運動にもいろいろと挑戦してきました。フェンシング、アイスホッケー、バドミントンなど…どれもとても好きです。いろいろなスポーツをしてきた感覚がピアノに生かされている部分もあるかもしれませんね!

International Chopin Competition on Period Instruments
https://iccpi.pl/en/

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/