チャイコフスキーの「悲愴」に、私たちは過剰なドラマを求めすぎていなかったか。ドミンゴ・インドヤンは首席指揮者を務めるロイヤル・リヴァプール・フィルを率いての「悲愴」で、そう問いかける。さりげない冒頭から、自然に主部へとすべり込む。極端な抑揚や悲劇的な身振りの代わりに、滑らかなフレージングと各楽器の色彩感が、音楽を伸びやかに呼吸させる。この曲はまず、“悲愴”である前に「交響曲第6番」―ただし、濃密なドラマが詰まった―なのだ。終楽章の哀歌の末尾でも、コントラバスの拍動が「再生」を指し示している。また一人、ベネズエラからの俊英登場だ。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2023年11月号より)
【information】
CD『チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」/ドミンゴ・インドヤン&ロイヤル・リヴァプール・フィル』
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
ドミンゴ・インドヤン(指揮)
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
収録:2021年11月、リヴァプール(ライブ)
Onyx/東京エムプラス
ONYX4243 ¥2620(税込)