小林研一郎(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

炎のマエストロがたぎらせるプリミティブな音楽

小林研一郎

 小林研一郎の演奏会では、その熱量に圧倒される。そして熱気の中に、筆者は何かとても根源的な、例えば古くから伝わる踊りや祝祭を幻視することがある。彼のファンも、“炎のコバケン”の、そんな気持ちを底から奮い立たせてくれるところが好きなのだろう。

 11月の日本フィル東京定期は、彼のピュアさがストレートに伝わってくるプログラミングとなった。まずはコダーイの「ガランタ舞曲」。バルトークと並びハンガリーの民俗音楽研究の第一人者としても知られる作曲家だ。哀愁に満ちた旋律にはじまりロマ音楽風に高揚する同曲は、コダーイが子どもの頃に過ごした地の民謡に基づいている。東欧圏でも活躍してきたコバケンだけに、固有の民俗性へとずばっと切り込んでくれるはずだ。

 後半はオルフ「カルミナ・ブラーナ」。ドイツ・バイエルン地方の修道院に残され19世紀になって発見された古い韻文は、中世人の日常や愛、宗教観や世界観をシンプルな言葉で生々しくとらえていた。これを明快なメロディーに乗せ、現代オーケストラのパワーによって命を吹き込んだのが本作だ。単純な反復が生む陶酔は、古代の祝祭空間を彷彿とさせる。

 この呪術的ともいうべき力を秘めた作品を、コバケンはこれまで折に触れて取り上げてきたが、日本フィル東京定期での演奏は実に20年ぶりという。ソロには澤江衣里(ソプラノ)、高橋淳(テノール)、萩原潤(バリトン)というベテランを揃え、また合唱には近年評判を高めている東京音楽大学が入り、ベストキャストで臨む。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年11月号より)

第755回 東京定期演奏会 
2023.11/3(金・祝)19:00、11/4(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp