ショパン研究所(NIFC)A.シュクレネル所長が語るショパン国際ピリオド楽器コンクール

 現在ワルシャワで行われているショパン国際ピリオド楽器コンクールは、1927年以来、長い歴史を刻むショパン国際ピアノコンクールにつづく新たな国際コンペティションとして、2018年に創設。コンクールを運営するフリデリク・ショパン研究所(NIFC)にとっても、ショパンの作品を、彼が生きていた時代のピアノ(復元楽器も含む)で演奏するというのは画期的な企画であった。コンクール開幕直前にアルトゥル・シュクレネル所長にメールインタビューを試みた。

Artur Szklener ©Kohta Nunokawa

――第1回のコンクールを振り返っての感想をお聞かせください。

 第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールは、芸術面を競うコンクールと、ピリオド楽器による演奏を組み合わせた、ある種の実験であったと言えます。結果的に、演奏家や聴衆の皆さんが抱いた関心の高さは、私たちの想像をはるかに超えるものでした。

 ショパンの作品を彼の時代の楽器で演奏することは、非常に興味深いことでした。オリジナルのピアノや、それを忠実に復元した楽器があり、また一方では、ショパンが個人的に演奏していた楽器の複製も存在します。ショパンと同時代の人々が、当時、それらの楽器をどのように演奏していたのかという視点を、現在入手することのできる資料に基づいて演奏に投影させることが必要でした。残念ながら、録音という形で当時の演奏を記録した証拠がないため、現代の研究の成果と芸術家の感性を合致させる形で、その頃の演奏が放っていたオーラを、再現しようとする試みであったとも言えます。

――審査員の顔ぶれを拝見すると、前回よりは古楽系の審査員がやや増えた印象があります。

 いまお話したように、歴史的な演奏への考察という点では、さまざまな視点や文脈が重要となるために、審査も古楽関係者を含め多彩な面々になります。コンクールへの参加者が、可能な限り広範かつ包括的な方法で審査されるようにするためです。

 しかし、最も重要なのは、首尾一貫した説得力のある解釈、美しい音色、楽器演奏の熟練度など、芸術的演奏の普遍的な価値なのだと思います。その意味でも、第2回のコンクールは、第1回に増して非常に興味深く、創造的な“芸術的冒険”となるはずです。

――課題曲にバッハやモーツァルトが含まれていますが、これはどのような意図によるものですか? ショパンが古典をよく勉強していたことを踏まえてのチョイスでしょうか。

 これらの古典作品は、音楽の系譜を指し示し、演奏家が異なるスタイルやテクニックを提示することを可能にしています。私たちは、コンクール参加者の芸術的個性と、さまざまな音楽面の能力を知りたいと思っています。ショパンがこよなく愛したバッハやモーツァルトの作品を課題曲に取り入れることで、ショパンの創造の源と、彼自身が書き遺した数々の傑作との橋渡しができたらと願っています。

――今回の出場者の中では日本人が最多となりましたが、どのような印象ですか?

 まず第一に、歴史的鍵盤楽器による演奏というアイディアに、日本でこのような関心が寄せられていることをたいへん嬉しく思います。日本ではピリオド楽器を演奏する歴史が、それほど長くはないと感じていましたが、皆さんの関心の大きさには驚かされました。

 この現象は、日本のピアニストの多くが、音楽のオーセンティシティを追求するだけでなく、因習や制約にとらわれず、とてもオープンであることを証明しているのだと思います。そのような前向きな姿勢は、芸術家としてのチャレンジ精神にもつながり、素晴らしいことだと思います。日本では、ショパン時代のピアノでコンサート活動ができる機会は、フランスなどに比べると、それほど多くはないはずですから。

©Kohta Nunokawa

――NIFCが所有し、今回使用されるピアノのなかで、シュクレネルさんの特にお気に入りの楽器を教えてください。

 特に注目したいのは、一般に「複製」と呼ばれる楽器を製作すること、つまり、現代の技術者が往時のピアノを忠実に再現する作業です。もし私たちが、これからも、歴史的な楽器による演奏の潮流を拡大することに真剣に取り組むのであれば、可能な限り、最良の「現代的な復元楽器」を完成させることにこそ焦点を当てなければならないように思われます。

 というのも、ピアノはヴァイオリンなどと違って、機械的で、非常に複雑なメカニズムをもっています。それらのメカニズムは、時間の経過とともに摩耗していきます。そのため、同等の材料と技法を用いて、現代の技術者が忠実に再現した楽器は、現存する180年前の楽器よりも、むしろオリジナルに近いことが多いのです。180年の間に弱体化してしまった箇所がないわけですから。

 また、ショパン時代のピアノを復元するメーカーが発展することは、日本などでもピリオド楽器による演奏をさらに普及させるきっかけにもなるでしょう。

 個人的には、ポール・マクナルティの工房で最近作られたプレイエル・ピアノの復元楽器を高く評価しており、この楽器が、今後製作されるピアノのモデルになることを願っています。

Pleyel (copy of the instrument from 1830, collection of Paul Mc’Nulty)
写真提供:The Fryderyk Chopin Institute

――配信で楽しむファンに向けて、どんなところを聴いてほしいか、アピールポイントがあれば教えてください。

 ショパン時代のピアノの鍵盤は軽く、その幅がやや狭く、音の伸びは短くなっています。そのため、速いパッセージを弾くのは比較的簡単ですが、逆に、コントロールを保つのが難しくなります。

 また、音域によって音色が微妙に異なるため、メロディラインは強調しやすいのですが、その反面、きちんとしたレガートを弾くことができないと、つまり、音と音のつながりが保てないと、(叙情的な歌曲を歌うような)カンティレーナ効果を得るのは難しくなってしまいます。

 また、モダン・ピアノに比べてアリコート(通常の3本の弦に共鳴して振動する共鳴弦)が均等に配置されていないため、不協和音がより鋭くなることもあります。

 このように、歴史的ピアノはニュアンスに満ちた、奥の深い物語へわたしたちを誘うのです。細部に耳を傾け、繊細な音楽家が紡ぐ物語に身を任せる楽しみがあるのだと思います。ぜひ、そのようなことを念頭に置いて、配信を楽しんでいただければと思います。

取材・文:白柳龍一