ラハフ・シャニ(指揮、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督)

イスラエルの文化・芸術を代表する、誇るべきオーケストラです

(C)Marco Borggreve

 これからの音楽界を担う若きマエストロ、ラハフ・シャニがパートナーであるイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団とともに、今秋、日本にやってくる。シャニは1989年、テルアビブ生まれ。幼い頃から合唱指揮者である父親に何度もイスラエル・フィルの演奏会に連れて行ってもらった。

 「バレンボイム指揮のブラームス、メータ指揮のマーラー、リヒャルト・シュトラウス、シェーンベルクの『グレの歌』などが特に記憶に残っています」

 ピアニストとしてキャリアを始めたシャニは、早くも15歳でイスラエル・フィルと共演。その後、2009年からベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で指揮とピアノを学ぶ間に、しばしば、コントラバスのエキストラとしてイスラエル・フィルの演奏に加わった。

 「オーケストラを内側から見てみたいと思い、コントラバスを学び、イスラエル・フィルにしばしば呼んでいただきました。やはりメータとの演奏には強烈な印象を受けました」

 2013年にグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝。そのあと、クルト・マズアの代役としてイスラエル・フィルにデビューした。

 「イスラエルの音楽家にとってイスラエル・フィルを指揮するのは最大の夢なのです。指揮者としての初共演は夢が叶ったすごい瞬間でした。プロコフィエフの『ヘブライの主題による序曲』、私の弾き振りでバッハのニ短調のピアノ協奏曲、そしてマーラーの交響曲第1番というプログラムでした。最初から信頼とともに自然に音楽を作ることができ、新しい時代が始まるという感覚を持ちました」

 そして、2020年にイスラエル・フィルの音楽監督に就任した。

 「就任要請を受けたときは、月に飛んでいくほど驚きました。イスラエル・フィルは、1969年から50年間、メータが音楽監督を務め、すべての楽団員の入団を彼自身が認めた、彼のオーケストラでした。メータの退任とともに、多くの古い楽団員も引退の時期を迎え、今は若い新しいメンバーが入ったことにより、柔軟性があり変化に対応できる状況です。新しい音楽監督として、やり甲斐を感じられる喜ばしい環境からスタートし、私のオーケストラといえるようになりました」

 音楽監督として、今秋、彼らとの初来日を果たす。ツアーのプログラムのメインには、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」と交響曲第7番が並ぶ。

 「イスラエル・フィルはベートーヴェンで特筆すべき演奏をします。メータと共に音楽を作ってきた素晴らしいベートーヴェンを、日本のみなさまにお聴かせしたいと思います。交響曲第3番『英雄』は音楽史上、革命的な作品です。作曲家自身が人生の中で作品様式において大きな変化を遂げました。表現力、強さ、緊張感。作曲家の個性が確立し始めた時期の作品とも言えるでしょう。第7番はイスラエル・フィルのトレード・マークのような作品で、いろいろな名指揮者と演奏してきた曲。誰もが好きにならずにいられない旋律が含まれていますね。今、新しい音楽監督である私の第7番を聴いていただきたいと思います」

 協奏曲では、小林愛実とショパンのピアノ協奏曲第1番、庄司紗矢香とベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を共演する。

 「小林さんとは初共演です。ショパンのピアノ協奏曲第1番は、2021年に私のもう一つのオーケストラであるロッテルダム・フィルにバレンボイムを独奏者として招いて演奏したのがとても良い経験となりました。サヤカとは何度も共演しています。素晴らしい音楽家で感銘を受けています」

 そのほか、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》序曲やツヴィ・アブニの「祈り」も取り上げる。

 「ベートーヴェンが《ドン・ジョヴァンニ》から影響を受けたのは明らかだと思います。今年96歳のアブニはイスラエルを代表する作曲家の一人です。『祈り』は1960年代に書かれた、聴きやすく、感動的な作品です」

 最後に来日公演の抱負を語ってもらった。

 「イスラエル・フィルは、イスラエルの文化・芸術を代表する、誇るべきオーケストラです。1936年にヨーロッパで人種差別を受けた移民たちによって創設されました。その遺産を受け継ぐ彼らの演奏は、単なるエンターテインメントではありません。日本のみなさまと人間的に深くつながりたいと思っています」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2023年10月号より)

Profile】
イスラエル・フィル音楽監督。2013年グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝。17年よりウィーン響首席客演指揮者、18年より過去最年少でロッテルダム・フィル首席指揮者に就任、26年よりミュンヘン・フィル首席指揮者就任予定。
1989年イスラエル生まれ。ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、バイエルン放送響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、シュターツカペレ・ドレスデン、ロンドン響、チェコ・フィル、パリ管、ボストン響などに客演し、今最も注目される若手指揮者の一人である。

【公演中止】
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団は、イスラエル・パレスチナ情勢の悪化に伴い、やむを得ず来日を中止することとなりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(11/1主催者発表)

https://tempoprimo.co.jp/archives/8541

【Information】
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

2023.11/19(日) 14:30 横浜みなとみらいホール 
11/20(月) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
出演/ラハフ・シャニ(指揮)、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、小林愛実(ピアノ)
曲目/モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲、ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11、
   ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55「英雄」
問:テンポプリモ03-3524-1221 
  神奈川芸術協会045-453-5080(11/19のみ) 
https://tempoprimo.co.jp
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


他公演 
2023.11/18(土) 大阪/フェニーチェ堺(072-223-1000)◎
11/21(火) アクロス福岡シンフォニーホール(092-725-9112)◎
11/23(木・祝) NHKホール(NHK音楽祭)(NHKプロモーション03-3468-7736)★
11/25(土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(Chuチケ052-308-8282)★

=小林愛実 ★=庄司紗矢香