向井航「ダンシング・クィア オーケストラのための」が第33回 芥川也寸志サントリー作曲賞を受賞

 音楽の現在(いま)を紹介する、東京の現代音楽の祭典「サントリーホール サマーフェスティバル」。その軸となるプログラムの1つで、今年第33回を迎えた「芥川也寸志サントリー作曲賞」(旧名「芥川作曲賞」)の公開選考が8月26日に行われ、3つの候補作の中から向井航の「ダンシング・クィア オーケストラのための」が受賞した。

 向井はこれまで2017年・日本音楽コンクール作曲部門第2位、第8回クロアチア国際作曲コンクール優勝など、国内外の多くのコンクールで確かな実績を残してきた。現在はオーストリア・アントンブルックナー私立大学にて博士研究員を務め、ジェンダーやクィア(※)をテーマに、ドキュメンタリーの手法を使ったミュージックシアターの研究に取り組んでいる。受賞作も、クィアのアクティビズムならびに2016年にアメリカ・フロリダで起きたゲイナイトクラブでの銃乱射事件をテーマとしている。
※性的マイノリティ全てを包括する言葉。かつては同性愛者に対する蔑称として使われていたが、現在は当事者が肯定的な意味で使用することが増えている。

授賞式より 撮影:池上直哉 提供:サントリーホール

 芥川也寸志サントリー作曲賞は、戦後日本の作曲史に大きな足跡を遺した故・芥川也寸志氏の功績を記念し、1990年にサントリー音楽財団(現・サントリー芸術財団)により創設。国内の新進作曲家のオーケストラ作品を対象とし、演奏会形式で公開選考を行っている。さらに、受賞者には新しいオーケストラ作品が委嘱され、2年後にその初演が行われる。今回も、選考演奏に先立って、第31回(2021年)受賞者の桑原ゆうの「葉落月の段」が披露された。

 第33回の選考委員は稲森安太己、小鍛冶邦隆、渡辺裕紀子の3名。公開選考当日、石川征太郎指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団により候補作が演奏され、選考委員による公開討議(司会:白石美雪)の結果、「既存の作品とは異なる提示に作曲家の生き様が現われ」た「アクチュアリティのある表現」が評価され、向井作品の受賞が決定した。

第33回の候補作品
◆田中弘基:『痕跡/螺旋(差延 II)』 オーケストラのための(2021~22)
初演/2022年5月21日 東京藝術大学奏楽堂
藝大定期 第410回 藝大フィルハーモニア管弦楽団 新卒業生紹介演奏会

◆松本淳一:『忘れかけの床、あるいは部屋』 スコルダトゥーラ群とオーケストラのための(2016/2018/2022)
初演/2022年11月10日 NHK505スタジオ
第91回日本音楽コンクール作曲部門本選会

◆向井航:『ダンシング・クィア』 オーケストラのための(2022)
初演/2022年9月17日 杉並公会堂 大ホール
アンサンブル・フリーEAST 第17回演奏会

 受賞した向井には、サントリー芸術財団代表理事・堤剛より、賞状と賞金150万円が贈られた。さらに、同財団より新しいオーケストラ作品が委嘱され、完成後にコンサートで初演される。

向井航 写真提供:サントリー芸術財団

◇向井 航(むかい・わたる)
〈贈賞理由〉
既存の作品とは異なる提示に作曲家の生き様が現われ、そのアクチュアリティのある表現が高く評価された。

〈略歴〉
1993年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科を首席卒業後、渡独。受賞歴に安宅賞、クロアチア国際作曲コンクール優勝、メンデルスゾーン全音楽大学コンクール独連邦大統領賞、日本音楽コンクール作曲部門第2位及び岩谷賞、第27回芥川作曲賞最終候補など。現在アントンブルックナー私立大学博士研究員。

芥川也寸志サントリー作曲賞
https://www.suntory.co.jp/sfa/music/akutagawa/