In memoriam 飯守泰次郎

Taijiro Iimori 1940-2023

 指揮者の飯守泰次郎が8月15日、急性心不全のため死去した。享年82歳。

(c)山岸伸

 旧満州生まれ。桐朋学園大学で故・齋藤秀雄に師事し、アメリカ・ヨーロッパでも研鑽を積んだ。1966年にミトロプーロス国際指揮者コンクール、69年カラヤン国際指揮者コンクールで入賞。71年に日本人としてはじめてバイロイト音楽祭の音楽助手に就任し、その後、ベームやブーレーズら名指揮者のアシスタントとして多くの上演に携わった。ブレーメン、マンハイム、ハンブルク、レーゲンスブルクの各歌劇場の指揮者も務め、長くドイツで活躍した。

 日本では読売日本交響楽団の指揮者のほか、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を歴任。2000年から4年がかりで東京シティ・フィルと取り組んだワーグナー《ニーベルングの指環》全4作ツィクルス上演では、その功績により03年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
 14年から18年には新国立劇場の第6代オペラ芸術監督を務めた。《パルジファル》、《ニーベルングの指環》などのワーグナー作品で特に高い評価を集めるとともに、辛口な日本のワグネリアンをも唸らせた。

 2000年度第32回サントリー音楽賞、04年紫綬褒章、08年第43回大阪市市民表彰、10年旭日小綬章、12年度日本芸術院賞、14年度第56回毎日芸術賞、文化功労者(12年度)、21年度音楽クリティック・クラブ賞、令和4年度太田市功労者、第30回(22年度)渡邉曉雄音楽基金特別賞。14年12月より日本芸術院会員。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団桂冠名誉指揮者、関西フィルハーモニー管弦楽団桂冠名誉指揮者。

 今年4月、東京シティ・フィルを指揮した「飯守泰次郎のブルックナー交響曲第4番」が最後のステージとなった。この公演以外にも、ワーグナーやブルックナーなど、ドイツロマン派作品を中心に聴衆の記憶に残る名演は数えきれない。まさに“ドイツ音楽の大家”と呼ぶにふさわしい名匠だった。