In memoriam 外山雄三

Yuzo Toyama 1931-2023

 指揮者・作曲家の外山雄三氏が7月11日、慢性腎臓病のため長野県の自宅で亡くなった。享年92歳。同氏は今年5月に開催されたパシフィックフィルハーモニア東京定期の指揮を務めていたが、演奏中に体調が悪化、ステージをおりる事態となった。終演後のカーテンコールでは舞台にもどり、観客に挨拶をしたが、その後6月の大阪交響楽団定期への出演を降板。再び指揮台に立つ姿を見せることが待ち望まれる中での訃報となった。

(C)三浦興一

 1931年東京生まれ。東京音楽学校(現在の東京藝術大学)で作曲を学ぶ。52年、卒業と同時にNHK交響楽団に打楽器練習員として入団。指揮研究員を経て、56年に同団を指揮してデビューを果たした。
 その後、58年から2年間ウィーンに留学。帰国後の60年、NHK交響楽団の世界一周演奏旅行に同行し、ヨーロッパ各地12ヶ国を巡行。同年に作曲した自作の「管弦楽のためのラプソディー」の演奏が好評を博し、作曲家としてもその名を広めた。同作は、〈あんたがたどこさ〉〈ソーラン節〉〈八木節〉といった日本人になじみの深い民謡や、拍子木や和太鼓、チャンチキといった邦楽器を、西洋の管弦楽と見事に調和させた作品。初演以降も、わが国はもとより世界中で演奏され続け、日本を代表するオーケストラ作品となった。
 その後64年、66年、79年とNHK交響楽団海外公演を指揮。79年には同団正指揮者に就任した。85年にはニューヨークで開催された国連40周年記念コンサートにN響とともに出演、全世界に放送された。

(C)S. Yamamoto

 国内では大阪フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団のポストを歴任。音楽に対する厳しくも真摯な姿勢で、多くの演奏家たちに薫陶を授けた。オペラ指揮の領域でも、99年三善晃作曲《支倉常長 「遠い帆」》、2006年一柳慧作曲《愛の白夜》などの邦人作品を初演し、名演を残した。
 作曲家としては、「ラプソディー」以降もオペラ、バレエ音楽、ミュージカル、劇音楽、交響曲、協奏曲、管弦楽曲、室内楽曲、歌曲、合唱曲など多岐にわたる作品を手がけた。すぐれた邦人作曲家による作品に与えられる「尾高賞」を受賞したヴァイオリン協奏曲第1番(第12回・1964年受賞)、交響曲第2番(第48回・2000年受賞)や、20世紀を代表する名匠・ロストロポーヴィチから委嘱されたチェロ協奏曲など、数多くの傑作を残した。

 1981年第1回有馬賞、1983年第14回サントリー音楽賞、1999年文部大臣表彰、2010年度日本放送協会放送文化賞を受賞。23年現在、NHK交響楽団正指揮者、大阪交響楽団名誉指揮者。演奏・作曲の両面から戦後の日本のクラシック界を牽引し続けた、まさに巨星と呼ぶにふさわしい芸術家だった。