2023北九州国際音楽祭の聴きどころ

世界的プレイヤーから地元出身者まで、旬のアーティストたちが彩る北九州の秋

 今秋「2023北九州国際音楽祭」が開催される。36回目を迎える同音楽祭は、オリジナル企画を含む多彩な内容や、音響の良さで名高い720席の響ホールを中心にした好環境が大きな魅力。幅広い層が高品質のクラシック音楽を楽しめる。以下、今年のラインナップをご紹介しよう。

 まずは主軸をなす響ホールの公演から。最初は10月14日の「小曽根真(ピアノ)&アヴィシャイ・コーエン(ベース) The Amity Duet」。ジャズの最前線で活躍する小曽根と、コンテンポラリー・ジャズの重鎮コーエンによる夢のコラボレーションだ。共にクラシックにも造詣が深い名奏者にして作曲家。日本とイスラエルのレジェンドが「友情、平和、ハーモニー」を体現するこのワールド・プロジェクトは、ライブでこその妙味に溢れている。

左:小曽根真 右:アヴィシャイ・コーエン ©Kazuyoshi Shimomura/ Hamed Djelou

 お次は10月29日の「南紫音(ヴァイオリン) 福田悠一郎(ヴァイオリン) 佐々木亮(ヴィオラ) 横坂源(チェロ)」。2005年ロン=ティボー、15年ハノーファーの両難関コンクールで第2位を受賞し、近年の進境も著しい南、数々のコンクールで第1位を獲得後、著名楽団との共演や放送等で活躍する福田、NHK交響楽団首席奏者の佐々木、ソロや室内楽で引く手数多の横坂と、屈指の実力者が揃って、ベートーヴェン等の有名弦楽四重奏曲を3曲奏でる。世代や立場を超えた名手たちによる音楽はまさに興味津々。南は北九州市、福田も福岡県と地元出身の演奏家が主役を演じるのも当音楽祭の特徴だ。

上段左より:南紫音、福田悠一郎
下段左より:佐々木亮、横坂源

 代わって11月4日は「アレクサンダー・ガジェヴ(ピアノ)」のリサイタル。イタリア生まれの彼は、2015年の浜松国際ピアノコンクールで優勝し、21年のショパン国際ピアノコンクールでも第2位を受賞して人気を集めている。ショパンの小品や「展覧会の絵」等の多様なプログラムを披露するこの機会に、ニュースターの腕前と清新なピアノ音楽を体験したい。

アレクサンダー・ガジェヴ ©️Andrej Grilc

 11月23日の「マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ」は同音楽祭の名物企画。地元出身で北九州市文化大使も務めるN響特別コンサートマスターの”まろ”こと篠崎史紀を主体としたこのオーケストラは、国内主要楽団のコンサートマスターや首席奏者による「マイスター・アールト組」と、オーディションで選ばれた優秀な若手演奏家を核とする「ライジングスター組」で構成。指揮者は置かず、メンバーの自発的なアプローチと卓越したアンサンブル力による生き生きとした演奏を旨としている。今回は、モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーンのメロディアスな人気交響曲が並ぶプログラム。ベテランと若手が一期一会の気概で臨むこの公演は、他では聴けないライブ感に満ちている。

篠崎史紀 ©井村重人
マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ ©2022北九州国際音楽祭

 響ホールの最後は、12月10日の「アレクサンドル・カントロフ(ピアノ) ズラトミール・ファン(チェロ)」。2019年チャイコフスキー国際コンクールの優勝者がタッグを組んだ、これまた夢のデュオが登場する。フランスのピアニストとして初優勝を果たしたカントロフは、すでに世界の第一線で活躍を続け、無類の迫真性や雄弁な表現で圧倒的なインパクトを与えている。40年ぶりのアメリカ人覇者にしてチェロ部門の最年少優勝者であるファンも、完璧なテクニックと洗練された表現力を持つ注目の奏者。ここは個性的な俊才同士の丁々発止のやりとりから耳目を離せない。

左:アレクサンドル・カントロフ 右:ズラトミール・ファン

 また音楽祭に華やぎをもたらすのが北九州ソレイユホールでの外来オーケストラの公演。今年は、10月15日に「パーヴォ・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 ブルース・リウ(ピアノ)」が行われる。スイスのドイツ語圏を代表する同楽団は、錚々たる指揮者を迎えてきた国際的な実力派。2019年10月よりパーヴォ・ヤルヴィが音楽監督・首席指揮者を務めている。著名楽団のシェフを歴任し、ベルリン・フィル等にも客演を続けるパーヴォは、15年から22年まで務めたN響の首席指揮者としてもお馴染みの存在。細部まで生気を放つその音楽は、トーンハレ管との録音でも鮮度の高さを見せているだけに、日本でのコンビ初披露が実に楽しみだ。ベートーヴェンを軸にしたプログラムも興味深いし、ソリストが21年ショパン国際ピアノコンクールの覇者ブルース・リウというのも極めて豪華。表現力豊かな彼が、コンクールゆかりのショパンの協奏曲をいかに奏でるか? にも熱視線が注がれる。

左:パーヴォ・ヤルヴィ ©Kaupo Kikkas 右:ブルース・リウ ©Yanzhang
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 ©Gaëtan Bally

 忘れてならないのが西日本工業倶楽部で開催されるサロン・コンサート。こちらは、11月1日に「笹沼樹(チェロ) 菅沼希望(コントラバス)」の公演が行われる。国指定重要文化財の由緒ある洋館の優雅な広間での音楽体験自体が貴重だし、演奏者の息遣いや細かな動きを通常以上に感じ取れるのも魅力。まして今回は、低音弦楽器の俊英デュオゆえに、普段は味わえない響きや絡み合いを堪能できる。

左:笹沼樹 右:菅沼希望

 ハイクオリティかつ工夫された各公演を、こぞって満喫したい。

文:柴田克彦

2023北九州国際音楽祭
「新時代へ―」

2023.10/14(土)~12/10(日)
北九州市立響ホール、北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他

●小曽根真(ピアノ) & アヴィシャイ・コーエン(ベース) The Amity Duet
10/14(土)15:00 北九州市立響ホール

●パーヴォ・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 ブルース・リウ(ピアノ)
10/15(日)15:00 北九州ソレイユホール

●南紫音(ヴァイオリン) 福田悠一郎(ヴァイオリン) 佐々木亮(ヴィオラ) 横坂源(チェロ)
10/29(日)15:00 北九州市立響ホール

●サロン・コンサート 笹沼樹(チェロ)&菅沼希望(コントラバス)
11/1(水)14:00 西日本工業倶楽部

●アレクサンダー・ガジェヴ(ピアノ)
11/4(土)15:00 北九州市立響ホール

●マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ
11/23(木・祝)15:00 北九州市立響ホール

●アレクサンドル・カントロフ(ピアノ) ズラトミール・ファン(チェロ)
12/10(日)15:00 北九州市立響ホール

音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp