街の魅力を熟知したアーティストおすすめのスポットへ出かけよう!
取材・文:片桐卓也
1993年に開館し、その建物としての佇まいと優れた音響によって、訪れた多くのアーティストを虜にしてきた「北九州市立響ホール」。今回は、このホールで演奏を重ねてきたアーティスト、南紫音(ヴァイオリン)と笹沼樹(チェロ)に、コンサートホールと北九州という都市との関係、その魅力のケミストリーを語ってもらった。もちろん、ふたりとも今年の「北九州国際音楽祭」に参加する。
――北九州市は1963年に5つの都市が対等合併して生まれた都市で、響ホールは元の八幡市にあり、市街地を見下ろす皿倉山の麓にあたる場所に作られました。開館は93年でした。
笹沼 僕は東京出身なのですが、初めて響ホールを訪れたのは高校3年生の時でした。市制50周年を記念する祝祭弦楽合奏団のオーディションに合格し、演奏会(2013年開催)のために行ったのですが、まず建物そのものがガラス張りで、ホールのまわりの自然を映し出している姿に感動した覚えがあります。その合奏団は翌年から「マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ」という名前になって活動を続けていますね。
南 私は北九州市小倉北区出身なので、物心ついた頃から響ホールでコンサートを聴いたり、篠崎永育先生(N響特別コンサートマスター 篠崎史紀氏の父)の発表会で演奏したりと、身近にあるコンサートホールでした。特に音の素晴らしさには最初の頃から魅かれていました。また、客席とステージの距離感がとても近く感じられて、後ろの席のお客様の顔まで見える感覚があります。ですので一体感がとても感じられますね。
笹沼 音響の良さももちろんですが、僕はバックステージも好きです。楽屋だけでなく、みんなが集まれる憩いのスペースもあって、そこでオケに参加しているメンバーと会話し、気分転換をすることもできます。全国的に見ても他にこういうスペースを持ったホールはなかなかないと思います。
――北九州といえば、やはり気になるのは地元グルメ。競馬騎手のレジェンド・武豊さんは「小倉の寿司は日本一」と色々なところで語っていらっしゃるようです。
笹沼 オケのコンサートが終わった後は、地元の名店を巡って食べ歩くというのが、ほぼお決まりのコースとなっています。だいたいマロさん(史紀氏の愛称)の行きつけの店という感じですが。それと、コンサートへの差し入れの定番がシロヤのサニーパン。これ、食べるのが難しくて、初心者はたいてい中の練乳がはみ出てしまいますよね。
南 地元の人でも注意しないとそうなります。でも、本当に美味しいパンで、北九州には無くてはならない定番のひとつですね。
――南さんは小倉北区出身ということで、地元のことにはもちろん詳しいと思うのですが、グルメ以外でお薦めのスポットはありますか?
南 北九州市は意外に文学者と縁が深く、北九州市出身の松本清張を紹介する記念館があります。また、子どもの頃によく行った場所といえば、やはり小倉城でしょうか。コンサートは小倉の九州厚生年金会館(現在の北九州ソレイユホール)で聴くことが多かったですが、響ホールができてからは、ここで世界的な音楽家の演奏を聴く機会が増えましたね。
笹沼 僕は地元民ではないのですが、ほぼ毎年通っているうちに旦過市場が好きになりました。昨年、大きな火事もあって大変な想いをされた方も多いと思い、応援Tシャツを買いました。復活を願っています。
――福岡県内で最も古かった映画館、小倉昭和館も焼失してしまったのですよね。映画ファンとしては残念でした。ところで、古い建物といえば、今年の「北九州国際音楽祭」で笹沼さんは、チェロとコントラバス(菅沼希望)という珍しい編成でコンサートをされますね。その会場である西日本工業倶楽部(戸畑区)も、明治時代を代表するアール・ヌーボー様式の建物(旧松本家住宅)で、コンサートが行われる洋館のほうは辰野金吾の設計という由緒ある建物です。
笹沼 まだその会場で演奏したことがないので、果たしてどうなるだろうと思っています。ただ、チェロとコントラバスのデュオというと、ちょっと古めかしく、かつ落ち着いた低い音を想像されるかもしれないのですが、実際のところ、このデュオで演奏する作品は、意外に高い音域を細かく弾く作品が多く、音のイメージとしてはキビキビした感じです。菅沼さんは素晴らしいテクニックの持ち主ですので、お互いに競い合うような雰囲気があるかもしれません。それをちょっと小さなサロン風の空間で楽しんでいただくのも良いかなと思います。
一方で、響ホールはモダンな外観ですが、内装には八幡製鉄所の溶鉱炉と同じ耐火レンガが使われていたりと、かえってレトロなイメージがあるかもしれませんね。
――南さんは、響ホールで珍しく弦楽四重奏に取り組まれますね。
南 以前からクァルテットには取り組みたいと思っていたのですが、なかなかチャンスが無かったので、今回は思い切って、信頼できる仲間を集めて演奏してみようと思います。
――ホールに縁の深いおふたりの演奏だけでなく、2023年も多彩なコンサートがラインナップされている響ホールは、一度は訪れてみてほしいコンサートホールですね。
【Information】
2023北九州国際音楽祭
10/14(土)~12/10(日)
南紫音(ヴァイオリン) 福田悠一郎(ヴァイオリン) 佐々木亮(ヴィオラ) 横坂源(チェロ)
2023.10/29(日)15:00 北九州市立響ホール
●曲目
ハイドン:弦楽四重奏曲第75番 ト長調 op.76-1 Hob.Ⅲ-75
ボロディン:弦楽四重奏曲第2番 ニ長調
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 op.59-2「ラズモフスキー第2番」
●料金
全席指定
一般:4,000円
ペア券:7,000円
U-25席:2,000円
※当日各500円増
※ペア券は前売りのみ
サロン・コンサート 笹沼樹(チェロ)&菅沼希望(コントラバス)
2023.11/1(水)14:00 西日本工業倶楽部 ※完売
●曲目
ゴルターマン:チェロとコントラバスのための「ベッリーニの思い出」
ロッシーニ:チェロとコントラバスのための二重奏曲 ニ長調
バリエール(バウマン編):2台のチェロのためのソナタ ト長調(チェロ&コントラバス版) 他
●料金
全席自由席
一般:4,000円
※当日500円増
※お茶・菓子付き
マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ
2023.11/23(木・祝)15:00 北九州市立響ホール
●出演
篠崎史紀(コンサートマスター) 他
●曲目
モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183(173dB)
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D.485
メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 op.56「スコットランド」
●料金
全席指定
S席:5,000円
A席:3,500円(完売)
U-25席(A席):2,000円(完売)
※当日各500円増
北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp/