INTERVIEW 島村奨(電子チケット販売サービス「teket」企画・開発者/株式会社NTTドコモ)

取材・文:飯田有抄 写真:市川広宝

 スムーズな操作感と手厚いサポート体制が評判をよび、電子チケット販売サービス「teket(テケト)」が広がりを見せている。チケット販売から入場、そして出演者とファンのコミュニケーションまで幅広く担い、イベント産業の新たな盛り上がりに一役買っている。そんなteket開発者である株式会社NTTドコモの島村奨氏に、サービスにかけた思いや展望について話を訊いた。

ファンとアーティストを繋ぎ
イベントの価値を高めていきたい

――インターネットで購入後、QRコードを会場で提示するのみ。そんな電子チケットサービスはとても便利ですが、島田さんはイベント主催者側の目線からこのサービスを実現したいと思ったそうですね。
 

島村:はい。僕は学生時代からヴァイオリン奏者としてオーケストラに所属していて、今もアマチュア・オーケストラで活動しています。多い時は10の団体に所属して、年間30公演ほど出演することもありましたが、どの団体もチケット販売の大変さに直面してきました。

アマオケの場合、チケットの9割は団員の手売りなんですね。2000人収容の大ホールのチケットを、座席表とともに一枚一枚印刷し、封筒にいれて、現金を管理する。管理面から最終的には一人の担当者に労働集約させることになる。本来なら練習にあてたい時間に、そうした作業に追われる人が各団体にいるわけです。その大きな負担をどうにかしたいと思ったところから、teketの発想が生まれました。


teketの特徴


――2019年にベータ版がスタートしたそうですね。 

島村: 20団体ほどの主催者様にお声がけをして使い始めてもらいました。ところが走り出したとたん、2020年にコロナ禍へ。公演という公演がすべてキャンセルとなってしまいました。

――いきなり大変な時代に入ってしまいましたね。どう乗り越えられたのでしょうか?

島村:業界でもかなり早い段階でしたが、2020年4月にライブ配信のチケット販売をスタートしました。当初はアーティストが無料で配信を始めましたが、彼らも収入が必要です。有料で配信チケットを販売できるよう最速で開発を進め、2週間でリリースしました。

リアル・イベントが再開してからは、感染者が出た場合に周りの座席の方々に連絡を取る必要がありました。電子チケット販売では、事前に利用者の緊急連絡先を入手・管理できます。また、コロナ禍では格子状に座席を販売しなければなりませんでしたが、それもボタン一つで設定ができるようにしました。安全管理のもとイベントができると、主催者様には大いに喜んでいただきました。

――現在teketの利用者層は、どのような方が多いでしょうか。

島村:チケットを購入するお客様に向けては、使い勝手の良さを常にブラッシュアップをしています。teketの利用はシニア層も多く、全ユーザーの16%が占めています。これは他の電子チケットサービスよりも倍くらいの利用率です。

基本的には、お名前、メールアドレス、パスワードという必要最低限の情報だけを入れればチケットが購入できます。主催者様の設定にもよりますが、紙のチケットを郵送する必要はないので、住所や電話番号といった情報がいりません。おすすめ公演や、近隣のイベント情報などがほしい方には、居住地など段階的に情報を入れていただくスタイルをとっています。

チケットを販売する主催者様は、演劇、映画、アートのほか、野球のオープン戦やゴルフイベントなどにも使われるようになりました。ターゲットがもともとオーケストラなので、teketのサイト全体が落ち着いた雰囲気です。そこに親和性を感じてくださる主催者様に利用していただいています。学校法人、地方自治体のイベントも増えてきました。


累計利用者数90万人・チケット販売数186万枚


――アマチュア団体の主催者の利用を発想の原点にしているということは、導入も難しくないということでしょうか。
 
島村:はい、最短5分でチケット販売を開始できます。
 
ぶらあぼスタッフ:私もアマオケに所属していて、導入したのですが、本当に5分でできました!
 
島村:リアルなお声、嬉しいです!
新しいシステムを取り入れるのは不安もおありでしょうから、新規導入後1ヵ月間はマンツーマンサポートがあります。また、初回のイベントにはスタッフが現場に赴き、オペレーションのお手伝いもしています。

――teketウェブサイトでは、さまざまな主催者のインタビュー記事なども充実していますね。ヴァイオリニストの石上真由子さんも利用されて、販売状況がリアルタイムで正確に掴めることが良かったとおっしゃっています。昨今ではバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)もteketを導入されましたね。

島村:はい、公演の直前までチケットの販売ができることを評価いただきました。紙のチケットは、通常販売が公演日前日までとなりますが、電子チケットは、当日はもちろん、開演後も、公演が終わるまで販売・購入ができます。BCJさんの4月の公演では、会場入口にチケット購入できるQRコードが掲示され、直前に買われるお客様もいました。またteket導入後は今まで以上に若い方が多く公演に足を運んでくれるようになったとうかがっています。

――teketのサービスで、今後ますます力を入れていきたい点はどんなところですか?
 

島村: イベントの出演者とファンが繋がる場、ファン同士のコミュニティとしてのウェブサイトの機能をもっと充実させていきたいですね。

teketには「コメント機能」という、ファンがイベントや主催者ページに投稿できる機能があります。この機能が当初の予想以上に使われているんですね。その結果、ファンの熱量が可視化される場として主催者の皆さまから喜ばれています。また、主催者とファンが交流できる場として活用いただけるようにもなってきました。今話したのは一つの例ではありますが、teketはファンと主催者が繋がれるプラットフォームとしても成長しています。

teketを3年間運営してきて改めて思ったのは、イベントは当日以外にも楽しみを提供できることです。ファンのコミュニティを育てている主催者を見ていると、teketの中でも外でも、チケット販売から公演後まで楽しみを提供しています。ファンの満足度も高く素晴らしいなと思う一方で、そういった主催者はまだごく一部です。コミュニティを育てられたり、イベントの価値をもっと高められたりできるように、主催者のサポートをしていきたいと思います。

【Profile】
島村 奨 Sho Shimamura
1990年東京出身。株式会社NTTドコモ所属。
NTTドコモの39worksプログラムを利用し、駐車場サービス「Smart Parking Peasy」の立ち上げに参画。最前線でプロダクト開発を担い、 2017年度グッドデザイン賞ベスト100およびグッドデザイン特別賞。[未来づくり] 受賞。
4歳からヴァイオリンを始め、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラなどの複数のアマチュアオーケストラに所属する中で、その運営に課題を感じ、運営支援のサービス化を行う。本プロジェクトでは、事業戦略の立案、開発統括、ファイナンス管理、法務・知財管理を担当。

|動画で分かる「teket」

teket 公式サイト