期待の若手指揮者が名曲プロでびわ湖に新たな風を吹き込む
びわ湖ホール名曲コンサート「華麗なるオーケストラの世界 vol.6」が7月17日に開催される。今回の注目は、新進気鋭の女性指揮者・喜古恵理香(きこえりか)のびわ湖ホール大ホールでのデビューである。取り上げるのは、ビゼー「アルルの女」第1・第2組曲にベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」という、名曲中の名曲ばかり。
喜古は群馬県出身、名門桜蔭中学・高校を経て、東京音楽大学・大学院で広上淳一や下野竜也らに師事。2014年に卒業後は、新国立劇場、二期会、藤原歌劇団、日生劇場(《ラ・ボエーム》など)の副指揮者を歴任し、17年から2年間、N響でパーヴォ・ヤルヴィのアシスタントを務める。この間に広響に登場したほか、アマチュア・オーケストラにも多数客演している。一昨年7月に広上の代役で京響の指揮台に立って、「幻想交響曲」より第4楽章や「ボレロ」を振ったのも記憶に新しい。そして22年、広島の「次世代指揮者コンクール」で第3位に入賞し、あわせてオーケストラ賞と聴衆賞にも輝いた。
びわ湖ホール制作の公演では、ファンタジックオペラ《泣いた赤おに》で指揮者を務めた。この松井和彦作曲の子ども向けの楽しいオペラは、びわ湖ホール声楽アンサンブルのレパートリーとなっていて、学校巡回公演を盛んに行っている。アンサンブルのメンバーが主要キャストを歌い、地元の子どもたちも加わる。これをピアノと打楽器が伴奏する。喜古の指揮は、きびきびと歯切れ良いリズムで音楽を前進駆動させ、生き生きとした歌の表情を生み出していた。時には打楽器を派手に鳴らし、ダイナミックなメリハリを作る。笑いをとる間の取り方も絶妙で、子どもだけでなく、大人も十分満足できる楽しいオペラとなった。喜古の力量の賜物といえよう。
今回は、同ホールの歴代芸術監督、沼尻竜典や阪哲朗らとも数多くの名演を残してきた日本センチュリー響を指揮して、びわ湖ホールでの本格デビューとなる。この名曲プログラムでは、「アルルの女」でビゼーらしい甘美な旋律と色彩感の豊かなオーケストレーションをどのように料理してくれるか。とりわけ第1組曲の「アダージェット」は繊細なテクスチュアが美しく、前述の京響の演奏会のアンコールでも取り上げていて、期待が持てる。メインの「英雄」交響曲は、ベートーヴェンの若々しい覇気と革新性の詰まった約50分の大作であり、若手指揮者にはやや荷の重い難曲であるが、逆に若さを存分にぶつけても、びくともしない古典である。喜古の持てる力と才能のすべてを傾注してこの大作に挑んでほしい。そうすれば期待をはるかに上回る生きのいい「エロイカ」が聴けるのではないだろうか。いや、そうなることを確信している。
文:横原千史
(ぶらあぼ2023年6月号より)
2023.7/17(月・祝)15:00 びわ湖ホール 大ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp/