INTERVIEW 西村朗(作曲家/草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル音楽監督)

ドヴォルジャークとブラームスに出会う夏の草津

取材・文:柴辻純子

 第43回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルが、8月17日から2週間にわたって開催される。ここ数年、新型コロナの影響で中止・縮小を余儀なくされたが、今年は海外から一流の演奏家たちを招いてアカデミー(講習会)を開催、フェスティヴァル(演奏会)は、音楽祭常連の名手たちに加えて、世界的ヴァイオリニスト、シュロモ・ミンツが初登場するなど話題は尽きない。聴きどころなど、音楽監督の作曲家、西村朗に話を聞いた。

西村朗 (C)草津夏期国際音楽アカデミー事務局

 今年のテーマは、「プラハとウィーン 二つの楽都-ドヴォルジャークとブラームス」。プラハのヴルタヴァ川(モルダウ)に架かるカレル橋でドヴォルジャークとブラームスが出会うという設定である。

画:西村繁男

 「プラハとウィーン、ヨーロッパ東部にある二大楽都の精神的なつながりは、西ヨーロッパとは違う色彩や風土感をもっていて、東側のヨーロッパにおける音楽文化の伝統の深みは、素晴らしいものがあります。チェコ、ボヘミアがテーマになるのは、歴史ある草津の音楽祭のなかでも新しい姿を提示することになると思います。プログラミングのアイディアは、元ウィーン楽友協会アーカイブ・ディレクターのオットー・ビーバ博士から助言をいただきました。ウィーンのライブラリーは所蔵楽譜が物凄くて、『そんな曲あるの?』と知らない曲が次々と出てきます」

 コンサートでは、ドヴォルジャークの室内楽曲がまとめて演奏されることも注目。

 「今回、ドヴォルジャークという作曲家に焦点を当てたことは大きいですね。彼の室内楽曲には、濃厚な後期ロマン派ならではの円熟と深みがあり、絶対音楽としての矜持を保ちながら、そこに民族的な色彩や高揚感が加わります。時代的に先輩にあたるブラームスは、室内楽の領域でも音楽を厳しく彫琢して、絶対音楽の深い世界を見せました。二人とも、ロマン主義音楽の室内楽の最後で、その頂点を築くという意識があったと思います」

 ブラームスのヴァイオリン・ソナタ3曲を披露するシュロモ・ミンツのリサイタル(8/19)、ドヴォルジャークの名作「スターバト・マーテル」(8/20)など、前半から話題のコンサートが目白押しである。

シュロモ・ミンツ (C)Andrei Birjukov

 「世界的名手のミンツとイタリアのピアノの巨匠ブルーノ・カニーノの組み合わせは歴史的演奏になりますよ。オープニング・コンサート(8/17)は、名匠アントニ・ヴィット指揮の群馬交響楽団によるドヴォルジャークの交響曲第7番で開幕するのも粋ですね」

ブルーノ・カニ―ノ (C)林喜代種

 西村音楽監督おすすめのコンサートをいくつか挙げるとしたら。

 「ドヴォルジャーク・ファンなら、『「糸杉」の歌と弦楽四重奏曲』(8/24)ですね。めったに実演では聴けない曲ばかりです。室内楽の名曲をと言うのであれば、週末にまとめて『ドヴォルジャークとブラームスの弦楽六重奏曲』(8/26)と『ベートーヴェンとスメタナのピアノ三重奏曲』(8/27)を聴くことをおすすめします。ミンツやウィーン・フィルの首席チェロ奏者タマーシュ・ヴァルガらが出演し、「大公トリオ」は、安定感抜群のクリストファー・ヒンターフーバーがピアノを弾きます。モーツァルト好きなら、豪華メンバーによる《ドン・ジョバンニ》のフルート四重奏版など、プラハ滞在中のモーツァルトを特集した日(8/22)でしょう。『ギロヴェッツって誰だ?』と思ったら、珍しい作品を集めた18世紀末のプラハとウィーンの室内楽の多彩さが味わえる日も注目ですね(8/23)。

 コンサートは基本、アカデミーのマスタークラスの指導者が出演します。普通これだけのメンバーでリハーサルを個々に行うのは大変ですが、ここだとそれが出来てしまう。演奏家が草津に滞在していることが、この音楽祭の強みです」

タマーシュ・ヴァルガのチェロ・クラス (C)林喜代種

 昨年、逝去した日本を代表する二人の作曲家の作品も取り上げられる。

 「一柳慧さんと、野田暉行さんですね。一柳さんは、草津に何度もお越しになっていました。野田さんは、私の師匠でもあり、創作能『高山右近』は、ここ草津でも上演されました(1999年)。つながりの強いお二人への追悼の意味を込めて、ピアノ曲を入れました。野田さんは、スメタナとヤナーチェクの弦楽四重奏曲の日(8/18)、一柳さんは、管楽アンサンブルの日(8/28)に。岡田博美(野田)、高橋アキ(一柳)両氏による演奏です」

 マスタークラスの充実もこの音楽祭の大きな特徴である。

 「もともと草津の音楽祭は、音楽評論家の遠山一行先生やヴァイオリンの豊田耕児先生が、国内外から一流の演奏家を招いて、集中的にレッスンをして、世界に羽ばたく若手音楽家を育てるアカデミーとして立ち上げました。コロナの影響で相当ダメージを受けましたが、今年は長期聴講生の募集も再開し、フルサイズでの実施を考えています。受講料全額免除など、受講生に対する奨学金(遠山基金奨学制度)もあります。選抜された受講生による『スチューデント・コンサート』(8/30)でその成果を披露し、音楽監督賞の贈賞も行われます」

スチューデント・コンサートの贈賞式 (C)林喜代種

 最終日(8/30)は、モーツァルトのプラハ交響曲で締め括られる。「今回は特に充実している」と音楽監督が太鼓判を押す、内容充実のコンサートが並ぶ今年の音楽祭。草津高原のさわやかな自然のなかで、ここでしか味わえない熱い音楽を体験していただきたい。

【Information】
第43回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
プラハとウィーン 二つの楽都―ドヴォルジャークとブラームス

2023.8/17(木)~8/30(水) 草津音楽の森国際コンサートホール

8/17(木)16:00
オープニング・コンサート

アントニ・ヴィット(指揮) 群馬交響楽団 ディーター・フルーリー(フルート)

8/18(金)16:00
室内楽/ドヴォルジャーク:わが母の教え給いし歌

カリーン・アダム(ヴァイオリン) 岡田博美(ピアノ) クァルテット・エクセルシオ

8/19(土)16:00
シュロモ・ミンツ ヴァイオリン・リサイタル

シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン)
ブルーノ・カニーノ(ピアノ)

8/20(日)16:00
合唱とオーケストラ/ドヴォルジャーク:スターバト・マーテル

アントニ・ヴィット(指揮)
天羽明惠(ソプラノ) 日野妙果(アルト) 小貫岩夫(テノール) 山下浩司(バス)
栗山文昭(合唱指揮) 草津アカデミー合唱団 草津フェスティヴァル・オーケストラ

8/21(月)10:30
子どものためのコンサート at 天狗山レストハウス

天羽明惠(ソプラノ) アンサンブル音泉 他

8/21(月)16:00
ブルーノ・カニーノ ピアノ・リサイタル

ブルーノ・カニーノ(ピアノ)

8/22(火)16:00
プラハのモーツァルト/モーツァルト:オペラ『ドン・ジョバンニ』(フルート四重奏版)

ディーター・フルーリー(フルート) カリーン・アダム 高木和弘(以上ヴァイオリン) ミロスラフ・セフノウトカ 般若佳子(以上ヴィオラ) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) 天羽明惠(ソプラノ) 村松稔之(カウンターテナー)

8/23(水)16:00
18世紀のプラハとウィーン フルートとオーボエによる室内楽

ディーター・フルーリー(フルート) トーマス・インデアミューレ(オーボエ) 大友肇(チェロ) 他

8/24(木)16:00
ドヴォルジャーク「糸杉」の歌と弦楽四重奏曲

カリーン・アダム 高木和弘(以上ヴァイオリン) ミロスラフ・セフノウトカ(ヴィオラ) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ) クラウディオ・ブリツィ(オルガン) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) 天羽明惠(ソプラノ) 日野妙果(メゾソプラノ) 村松稔之(カウンターテナー) 他

8/25(金)16:00
タマーシュ・ヴァルガ チェロ・リサイタル

タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)
クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)

8/26(土)16:00
室内楽 ドヴォルジャークとブラームスの弦楽六重奏曲

シュロモ・ミンツ カリーン・アダム 高木和弘(以上ヴァイオリン) ミロスラフ・セフノウトカ 般若佳子(以上ヴィオラ) タマーシュ・ヴァルガ 大友肇(以上チェロ) ブルーノ・カニーノ 岡田博美(以上ピアノ)

8/27(日)16:00
室内楽の神髄 ベートーヴェンとスメタナのピアノ三重奏曲

カリーン・アダム(ヴァイオリン) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) 他

8/28(月)16:00
管楽アンサンブルの夕べ/ドヴォルジャーク:管楽セレナード ニ短調

ディーター・フルーリー(フルート) トーマス・インデアミューレ 若木麻有(以上オーボエ) ミロスラフ・セフノウトカ(ヴィオラ) 高木和弘(ヴァイオリン) 高橋アキ(ピアノ) 四戸世紀(クラリネット) 他

8/29(火)16:00
ポピュラー・コンサート
ドヴォルジャークの室内楽/ドヴォルジャーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
~パノハ弦楽四重奏団へ感謝をこめて~

ミロスラフ・セフノウトカ(ヴィオラ) カリーン・アダム(ヴァイオリン) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) クァルテット・エクセルシオ 他

8/30(水)9:00
スチューデント・コンサート

8/30(水)16:00
クロージング・コンサート/モーツァルト:交響曲「プラハ」

ブルーノ・カニーノ(ピアノ) ディーター・フルーリー(フルート) トーマス・インデアミューレ(オーボエ)
矢崎彦太郎(指揮) 草津フェスティヴァル・オーケストラ

問:草津夏期国際音楽アカデミー事務局03–5790–5561
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