井上道義(指揮) 東京交響楽団

独創的なプログラムから感じるマエストロの世界観

井上道義

 2024年末での指揮活動からの引退を表明している井上道義。しかし彼の指揮は、22年度のサントリー音楽賞を受賞するなど、ますます充実度を増している。まさにカウントダウンが始まっているだけに、彼の一つひとつの演奏会がとても貴重である。

 6月には東京交響楽団の定期演奏会に客演し、武満徹と自作とエルガーを取り上げる。武満の「3つの映画音楽」からの2曲(『ホゼー・トレス』から「訓練と休息の音楽」、『他人の顔』から「ワルツ」)はともにビートのきいた音楽であり、井上の踊るような指揮が楽しめるだろう。井上は、今年1月、自伝的なミュージカルオペラ《A Way from Surrender〜降福からの道〜》を発表するなど、創作活動にも取り組んでいるが、今回演奏される交響詩「鏡の眼」は、彼が作曲活動を始めた頃(約20年前)に書かれた、自画像的な作品である。マーラーからの影響もある15分ほどの交響詩の再演に期待したい。エルガーも、最近の井上が好んで取り上げる作曲家である。とりわけ、「南国にて」は、昨年2月の東京フィルの定期演奏会でも演奏するなど、お気に入りのようである。ヴィオラの長大なソロが魅力的な作品。情熱的な演奏を繰り広げるに違いない。エルガーのチェロ協奏曲では、2021年のジュネーヴ国際音楽コンクールの優勝者である上野通明が独奏を務める。20世紀に書かれたチェロ協奏曲のなかで最も演奏頻度が高いこの作品を、上野がどう料理するのか興味津々である。
文:山田治生
(ぶらあぼ2023年5月号より)

東京オペラシティシリーズ 第133回
2023.6/3(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
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