沼尻竜典(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

シーズン・オープニングは監督渾身の「レニングラード」で平和への祈りを

 沼尻竜典はショスタコーヴィチの交響曲について、神奈川フィル音楽監督就任の記者会見でこう語った。「マーラーが複雑ですごいと思ってきたが、ショスタコーヴィチの素晴らしさに気づいた。井上道義さんが日比谷公会堂で全曲をやったように、群響時代に定期で取り上げて以来、ショスタコーヴィチにはまった」。その言葉通り、昨年7月定期の第8番は、クライマックスの阿鼻叫喚のすさまじさ、胸のすくような行進曲、緩徐楽章の透徹した美しさなど、神奈川フィルから充実を極めた響きを引き出した。演奏に温かみや人間味がある点も沼尻のショスタコーヴィチの特長だ。

 今回取り上げる第7番「レニングラード」は、第二次世界大戦でドイツ軍がレニングラードを包囲する中、作曲が続けられ、疎開先で完成された。反ファシズムだけではなく、平和への祈りと戦死者への鎮魂の想いをこめたショスタコーヴィチ最大級の交響曲でもある。第1楽章で小太鼓の連打とともに繰り返される行進曲は「戦争の主題」と呼ばれ、最後は破滅的な頂点を迎える。第2楽章は穏やかでノスタルジックだが、中間部は激しくグロテスク。第3楽章はヴァイオリンによる澄み切った旋律が気高い。第4楽章最後は「人間の主題」が高らかに吹奏され、圧倒的なクライマックスを築く。

 ウクライナでの悲劇が伝えられる中、この作品ほど痛切に響く曲はないだろう。沼尻と神奈川フィルの渾身の演奏が展開されるに違いない。
文:長谷川京介
(ぶらあぼ2023年4月号より)

みなとみらいシリーズ定期演奏会 第385回
2023.4/15(土)14:00 横浜みなとみらいホール
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