新国立劇場 2023/24シーズン・ラインナップ発表
〜オペラ部門の新制作2演目に期待

左より:小川絵梨子(演劇芸術監督)、大野和士(オペラ芸術監督)、吉田都(舞踊芸術監督)

 新国立劇場2023/24のシーズン・ラインナップ発表会が、3月7日に同劇場で行われた。コロナ禍による収入源やウクライナ情勢による世界的物価高などの影響で支出が増えていることを受け、オペラとバレエはチケット代金の値上げを発表。また全ジャンルとも新制作が1演目ずつ延期されることになり、その結果、特にバレエ&ダンスはレパートリー6作品に森山開次による『新版・NINJA』再演の計7作と新制作がないというたいへん厳しい状況になった。
 そんな中、オペラにおける新制作の2作品はいずれも注目度の高い公演となりそうだ。

【新制作】
●プッチーニ《修道女アンジェリカ》/ラヴェル《子どもと魔法》

(2023年10月、指揮:沼尻竜典 演出:粟國 淳)
●ヴェルディ《シモン・ボッカネグラ》
(2023年11月、指揮:大野和士 演出:ピエール・オーディ)

【レパートリー】
●J.シュトラウスⅡ《こうもり》
(2023年12月、指揮:パトリック・ハーン 演出:ハインツ・ツェドニク)
●チャイコフスキー《エウゲニ・オネーギン》
(2024年1月・2月、指揮:ヴァレンティン・ウリューピン 演出:ドミトリー・ベルトマン)
●ドニゼッティ《ドン・パスクワーレ》
(2024年2月、指揮:レナート・バルサドンナ 演出:ステファノ・ヴィツィオーリ) 
●ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》
(2024年3月、指揮:大野和士 演出:デイヴィッド・マクヴィカー)
●ヴァルディ《椿姫》
(2024年5月、指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ 演出:ヴァンサン・ブサール)
●モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》
(2024年5月・6月、指揮:飯森範親 演出:ダミアーノ・ミキエレット)
●プッチーニ《トスカ》
(2024年7月、指揮:マウリツィオ・ベニーニ 演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ)

 まず、大野和士芸術監督の体制になってから隔年で行うことが発表されているダブルビルの上演は「母と子の愛」をテーマに、プッチーニ「三部作」から《修道女アンジェリカ》とラヴェル《子どもと魔法》が選ばれた。大野監督によれば「プッチーニが書いた中でももっとも聖なる音楽」という《アンジェリカ》は登場人物が全員女性という作品。タイトルロールにキアーラ・イゾットン、公爵夫人にマリアンナ・ピッツォラートを配した他はすべて日本人キャストで固める。《子どもと魔法》も、子ども役にフランスの若手ソプラノ、クロエ・ブリオを迎える他はすべて日本人キャスト。16年間にわたってびわ湖ホール芸術監督を務めてきた沼尻竜典のタクト、そして粟國淳の演出という日本のオペラ界のパワーを結集したプロダクションとなりそうだ。

 もうひとつの新演出はヴェルディの後期作品の先駆けとなった傑作《シモン・ボッカネグラ》。新国立劇場では初上演だ。演出にエクサン・プロヴァンス音楽祭総監督を務めるピエール・オーディを迎え、インド出身で現代彫刻やパブリックアートで知られるアニッシュ・カプーアが美術を手がける舞台は、フィンランド国立歌劇場およびテアトロ・レアルとの共同制作で日本が世界初演となる。世界的なヴェルディ・バリトンのロベルト・フロンターリのシモン、日本でも人気のスター・ソプラノ、イリーナ・ルングのアメーリア、新国立劇場初登場となるルチアーノ・ガンチ他、こちらは世界的な歌手を揃えた重厚な布陣。

 その他はすべてレパートリー公演となるが、順を追って注目点を挙げていきたい。
 23年12月に上演される《こうもり》は新国人気のレパートリー。ヴッパタール歌劇場音楽総監督にドイツ最年少でついた指揮のパトリック・ハーンが新国初登場。ジャズピアニストとしても活躍する人で、《こうもり》をどうドライブしてくれるのか楽しみだ。また、日本人若手テノールの中ではナンバーワンの注目度を誇る伊藤達人が歌うアルフレードにも期待。

 24年1月には、大野体制のロシア・オペラ企画第1弾として2019/20シーズンの開幕を飾った《エウゲニ・オネーギン》が早くも再演。キャストにはロシアとウクライナ双方の出身者がいるが、国境を超えた芸術創造がみられるのは日本ならではかもしれない。2月にはベルカント・オペラの傑作《ドン・パスクワーレ》の再演がある。19年の新国立劇場初演の際にも大好評を博したプロダクションで、ミケーレ・ペルトゥージ他充実のキャスト陣の演奏を堪能したい。

 新演出の2演目と並んで注目されるのが、13年ぶりの上演となるデイヴィッド・マクヴィカー演出のワーグナー《トリスタンとイゾルデ》。こちらはチケット代も最高額だが、イゾルデに超一流ソプラノ、エヴァ=マリア・ヴェストブルック、トリスタンには大人気のヘルデンテノール、トリスタン・ケール、そして大野芸術監督自身がタクトをとるとあっては、見逃すことはできないだろう。

 5月の《椿姫》には、日本が誇るソプラノ中村恵理が昨年に続きタイトルロールで再登場する。21年の蝶々さんは圧倒的な名演だったが、今回のヴィオレッタも大いに期待されるところだ。5月末から6月にかけては、現代のキャンプ場を舞台にしたダミアーノ・ミキエレット演出の《コジ・ファン・トゥッテ》が登場。コロナ禍の2020/21シーズンの開幕公演《夏の夜の夢》を、さまざまな苦難を乗り越えて大成功に導いた飯森範親が指揮を務める。多くのアイディアで日本のクラシック界の活性化に一役買っている飯森のこと、オペラ初心者も楽しめるような魅力的な演奏を繰り広げてくれることだろう。シーズンの最後を締めくくるのは、プッチーニ《トスカ》。来る23年5月の《リゴレット》で、1998年の《セビリアの理髪師》以来25年ぶりの新国登場が待ち望まれている巨匠マウリツィオ・ベニーニがタクトをとる。タイトルロールはマゼールやムーティに認められた実力派のソプラノ、ジョイス・エル=コーリー。オペラ夏の祭典《トゥーランドット》で大好評を博したテオドール・イリンカイがカヴァラドッシとして新国に再登場するのも楽しみだ。

 コロナ禍から続く劇場の苦境は世界中どこをとっても同様だが、大野監督は、「演奏家の意欲、観客の感動の仕方が変わってきている。双方ともに命をかけてやるぞ、楽しむぞ、という気概を感じる」と語っており、それほど悲観はしていない。もちろん経済状況など問題は山積だろうが、「芸術家」としての意欲はいささかも衰えていないようだ。その思いが反映したシーズンとなることを期待したい。
取材・文:室田尚子

新国立劇場 
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オペラ 2023/24シーズンラインナップ 
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バレエ&ダンス 2023/24シーズンラインナップ 
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